参 花灯り 

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 ぽつん、と雨が頬に落ちた。はっとして見れば白い光は山上まで点々と続き、まるで道しるべだ。見る間に頬にぽつぽつと雨が当たる。迷っている暇はない。俺はどんどん山を登り始めた。    花は俺が近づくと強く輝き、まるで迎え火の灯りのようだった。死者の霊は(ともしび)を頼りに自分の大事な家にたどり着く。この白い花をたどれば、香夜の元に行けるかもしれない。  雨が次々に体に当たるけれど、構わなかった。ゴロゴロと鳴る雷の後に、山上が大きく光る。耳をつんざくような雷鳴が響いた。横に倒れたように生えている大きな木の横にしゃがみこむ。よく見ると、木の根元のところが大きな(うろ)になっている。そこに潜り込んだ途端に、土砂降りの雨が降ってきた。  ――あの白い花は、消えてしまわないだろうか。  滝のような雨を見ながら、そればかりを考えていた。あの花は、香夜の元に連れて行ってくれる。どうか雨に流されないようにと必死で願っていた。  時ならぬ豪雨が徐々に収まっていき、真っ暗だった周囲が少しずつ明るさを取り戻す。それでもまだ、空は薄暗く稲光が閃いている。俺はそろそろと洞を出た。雨に濡れた山肌に、白い花が仄かに輝いているのを見た。  ……よかった。  ぬかるんだ道はかなり危険だった。何度も足をとられ、滑りそうになりながら必死で登った。だいぶ山の上まで来て、後少しと思ったところで足がずるりと滑る。 「ッ! いってぇ」  咄嗟に草を掴み、何とか落ちずに済んだ。はあはあと息をつきながら起き上がれば、生えていた草で切ったのか、腕には一直線に傷が出来ていた。だらだらと流れる血と汗と泥で、もう体中ぐちゃぐちゃだ。 「お(やしろ)……」  見慣れた古い社が、ほんのりと白く光っていた。安心して座り込んでしまいそうな足を何とか前に運ぶ。ようやく登り切ったのだ。  もう少し歩いたら、香夜に会えるだろうか。あの開けた場所まで行けば。  社の前まで来た時、普段と違うことに気がついた。社の扉が開いている。……いつもは閉じたままなのに。そして、社の扉の前にも白い花びらがひらりと落ちていた。吸い込まれるように扉に手をかけた。  中に入った途端、視界がぐらりと揺れた。
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