参 花灯り 

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「……香夜」  香夜が真新しい木に囲まれた社の奥で一人、端然と座っていた。夜の中で見た、あの白い着物を着ている。目を閉じたままで、白い花びらのように体が淡く輝いている。ほっとして嬉しくて、俺はその場に座り込んでしまった。目の奥が熱くなって床についた手に涙がこぼれる。ちょうど薄くなった痣の上に、ぽた、ぽたと。 「壮真」  涼やかな声が聞こえた。  見上げると香夜が目の前に立っていた。俺を見てしゃがみこみ、花のように微笑む。香夜からはいつも超然とした強さを感じるのに、今はひどく儚げに見えた。 「……来てくれた」   香夜の言葉があまりに嬉しそうで、うまく言葉にならなかった。香夜が俺を抱きしめた。柔らかな甘い花の香りがする。 「ああ、嬉しい。壮真が来てくれて」 「俺だって! 嬉しい。ずっと、会いたかった」  なぜかはわからないけれど、もう会えないかと思った。そう呟けば香夜の手に力が入る。いつも香夜の体は冷たいのに、今は少し温かく感じる。 「こ、香夜、ごめん。綺麗な着物なのに。山に登って……転んだんだ。泥がついてて」  汚いから、と最後まで言えなかった。香夜は俺の両頬を包んで、そっとキスをした。唇の間から割り入るように舌が入ってきて優しく絡む。そんなことをされたのは初めてで、頭の中が熱くなる。  口の中に溜まった唾液を飲み込めば、とろりと甘い。香夜の舌が、俺の口の中をゆっくりと舐める。まるで、どこもかしこも舐め尽くすというように。  歯の一つ一つ、上顎や頬の内側まで丹念に探られ、甘い唾液を飲み込む。そのたびに体の奥で何かが疼く。口を離されて、はあと息をついた。 「壮真、怪我してる」  俺の腕の血を見て香夜が目を見張る。ああ、草で切ったところだ。すっと切れた傷は血が滲んだままだった。 「草で切ったんだ。そんなにひどくないから平気。……あっ」  香夜が俺の手を取って、血の滲んだ場所に唇をつけた。ぬるりと舌が這い、じわじわと体が熱くなる。香夜の赤い唇が全てを綺麗に舐め取り、真っ白な頬に赤みがさした。体がおかしい。香夜に舐められた場所が熱い。
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