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「あの…お話しを聞く前に、二人の本当の名前を教えてくれる?」
ママが穏やかな口調で聞いてきた。
ドキッとしたものの、俺は大人しく学生証を出した。それを見て、るなも同じくテーブルに置いた。
「陽介くんと菜月ちゃんね。ありがとう」
にこやかな顔で、ママは学生証を返してくれた。
「二人は今日、どんなお話でここへ来たの?」
俺がるなの様子を伺おうと横を向いた瞬間、るなが口を開けた。
「わ、私のおばあちゃんが…う、占い師で!」
突拍子もない設定に、俺は目をパチパチさせた。
ママもるなの勢いに驚いている。
「えっと、私とこの、陽介がママ…あ、あなたの元飼い猫と犬で…だから…おばあちゃんが前世の記憶を教えてくれて…えっと…」
その場で作り出していく設定に自分で追いつけなくなっている…。
否定しようにも、もう遅い気がした。
「つまりは! あなたにお礼を言いに来ました!」
伝わらない設定を放棄して、るなは結論だけを言った。
ママはるなを見守るように、相槌を打って聞いてくれている。
そして落ち着くようにと紅茶を飲むよう勧めてくれた。
体中が温まる。俺はママの声がこうしてまた聞けるという幸せを噛み締めていた。
深呼吸をしてから真剣な顔で、るなが話し始めた。
「あの…寒い雨の日、家族とはぐれて彷徨ってたるなをママが助けてくれなかったら、きっと死んでた。るなのこと大事にしてくれて、ひなたと出会わせてくれて、本当にありがとう」
るなの瞳が煌めき、ポロポロと涙が溢れてきた。
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