あの子は誰?

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あの子は誰?

目が覚めた。…夢? 遠い記憶が蘇ったような、不思議な感覚に包まれた。 「あれ…俺、泣いてる…」 気がつくと涙が目尻から耳の横をつたって落ちた。 まだ、ぼんやりする頭で、何か大切なことを忘れている…と思った。 ふとスマホを見ると、かけたはずのアラームがいつの間にか止まっている。 「やべ! 遅刻する!」 その辺に脱いだ服をまた着て、俺は慌てて玄関を出て大学へと向かった。 ポツポツと雨が降り始めようとしていた。 急いでいる時の赤信号は煩わしい。 歩行者信号が青に変わる瞬間にダッシュした。 横断歩道を渡り終えると、いつも使っているバス停に到着しようとするバスが見えた。 あのバスに乗れれば、ギリ間に合う! 「うわ〜! ちょっと、待って…!」 俺はギリギリのところでバスに駆け込んだ。 乗客の何人かが俺を見る。 息を整え、吊り革に掴まった。 目の前に座っている女子高校生と目が合った。 騒がしかったかと思い「すみません」と小さく謝ったが、じっとこちらを見てくる。 何なんだろ…怖いな…。 場所を移動しようと、吊り革から手を離そうとした時、そっと声をかけられた。 「…ひなた?」 俺の名前は「陽介」だ。 人違いしてるのかと思ったが、その名前を聞いて、とても懐かしい感じがした。 「えっと…知り合い? 君、誰だっけぇ…」 頭をかいて愛想笑いをする俺に、彼女はカバンから手帳を取り出すと白紙の一部を破り取り、番号を書き始めた。 「絶対、連絡して!」 そう言うと彼女は、そのメモを渡し、次の停留所で降りて行ってしまった。 呆気にとられた俺はバスに揺られながら、しばらくそのメモを見つめていた。
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