あの子は誰?

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菜月の話では、自分には前世の記憶があり、菜月は猫の「るな」で、俺は犬の「ひなた」だったそうだ。 俺たちは一緒の家に住んでいた。 「ひなた」が老衰で亡くなり、その後数年して「るな」も亡くなった…という話だった。 「えぇ…と、ごめん。演劇か何かのお話かな? 前世とか言われても…」 と言いつつ、ふと今朝見た夢を思い出した。そういえば、夢の中で聞いた名前が「ひなた」「るな」だったような…!? 「夢で昔のこと見なかった?」 まるで見透かしたかのように菜月が俺を見つめて言った。 「私ね、寝るの大好きなの。ここ最近、寝る度に前世の夢を見るようになって。最初は変な夢〜って楽しんでたくらいだったんだけど…すごく切ない気持ちになってママに会いたくなるの」 俺の夢に出てきた人のことかな、優しい安心する声だった。 「夢を見てるうちに、ひなたのことも思い出して…ひなたも私と同じように、今の世界にいるかもって思うようになって…」 「どうして俺がその、ひなただって分かるの?」 今日偶然会っただけなのに、前世の記憶だけで分かるものなのだろうか…。 菜月は寄りかかるようにして、俺の左胸に耳を当てた。俺は突然の行動にドキドキしてしまった。 「分かるよ、ひなたの音が聞こえたもん」 俺の心臓が高鳴る。すっと菜月が体から離れた。 「きっと、もうすぐ、ひなたも全部思い出すよ」 菜月が俺をじっと見つめる。 大きな瞳がキラキラと周囲の光を集めて輝いた。 俺の心臓はドキドキしていたが、不思議と彼女といると安心感もあった。 「ひなた、一緒にママに会いに行こう? そして、ありがとうを言いに行こうよ」 少し寂しげな、悲しげな表情にも見えた。 俺は信じられない話を聞いたにも関わらず、どうしても断る気にはなれなかった。 むしろ、早くその前世の記憶を取り戻したい。 そんな事を思っていた。
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