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次の日。
同じように遊歩道で犬の散歩をする彼を待った。
作戦は俺が話しかけて、ママについてそれとなく探る、というものだ。
上手くいくか、はたまた警戒されて失敗に終わるか…不安なところではあった。
ママの名前を思い出せずにいると、るなが教えてくれた。
宅配の人が呼ぶ名字、るなが亡くなる前に一緒に住んでいたママの恋人が呼ぶ名前。
『さえき ゆみ』
それがママの名前だ。
るなと一緒に作戦の手順を確認していると、例の男性が小型犬と歩いてきた。
彼が間もなく俺たちの前を通る…俺は意を決して声をかけた。
「あ、あの…すみません!」
彼は驚いた表情でこちらを見る。
「ちょっと今、人を探していて…。この辺りに住んでる方だと思うんですけど、さえきゆみさんって人、ご存知ないですか?」
俺にじゃれつく小型犬を抱っこして、彼は少し考えてから話し始めた。
「…その人がどうかしたんですか?」
「実は、以前僕たちにとても親切にしていただいて…その時はお礼が言えなかったので、もう一度会ってお話しがしたいんです。…ゆみさんは、覚えてないかもしれないけど、どうしても話だけでも聞いて欲しくて…」
軽く後ろのるなを振り返ると、るなもこちらへ来た。
ペコリと彼に会釈する。
怪しまれてるかもしれない。
でも、もうこれ以上のチャンスはない。
祈る気持ちで彼の返答を待った。
「お名前、伺っていいですか?」
そう言われた俺たちは「ひなた」「るな」とだけ名乗った。
ママが知っている名前はそれしかない。
「少し…待っててもらえますか?」
彼はそう言うと、俺たちから少し離れた場所で電話をかけ始めた。
話をしている相手はママだろうか?
こちらを時々チラッと確認する。
「ひなた…ママに会えるかな…」
不安そうにるなが言う。
俺もすごく不安だけど、安心するよう、るなの背中をそっと撫でた。
話し終えた彼がこちらへ戻ってきた。
「佐伯優海は、僕の母です。…佐伯は旧姓だけど。母も会いたいそうなので、一緒に来て下さい」
俺たちは安堵して、彼の後ろをついて行った。
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