ママに会いたい

3/3

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
次の日。 同じように遊歩道で犬の散歩をする彼を待った。 作戦は俺が話しかけて、ママについてそれとなく探る、というものだ。 上手くいくか、はたまた警戒されて失敗に終わるか…不安なところではあった。 ママの名前を思い出せずにいると、るなが教えてくれた。 宅配の人が呼ぶ名字、るなが亡くなる前に一緒に住んでいたママの恋人が呼ぶ名前。 『さえき ゆみ』 それがママの名前だ。 るなと一緒に作戦の手順を確認していると、例の男性が小型犬と歩いてきた。 彼が間もなく俺たちの前を通る…俺は意を決して声をかけた。 「あ、あの…すみません!」 彼は驚いた表情でこちらを見る。 「ちょっと今、人を探していて…。この辺りに住んでる方だと思うんですけど、さえきゆみさんって人、ご存知ないですか?」 俺にじゃれつく小型犬を抱っこして、彼は少し考えてから話し始めた。 「…その人がどうかしたんですか?」 「実は、以前僕たちにとても親切にしていただいて…その時はお礼が言えなかったので、もう一度会ってお話しがしたいんです。…ゆみさんは、覚えてないかもしれないけど、どうしても話だけでも聞いて欲しくて…」 軽く後ろのるなを振り返ると、るなもこちらへ来た。 ペコリと彼に会釈する。 怪しまれてるかもしれない。 でも、もうこれ以上のチャンスはない。 祈る気持ちで彼の返答を待った。 「お名前、伺っていいですか?」 そう言われた俺たちは「ひなた」「るな」とだけ名乗った。 ママが知っている名前はそれしかない。 「少し…待っててもらえますか?」 彼はそう言うと、俺たちから少し離れた場所で電話をかけ始めた。 話をしている相手はママだろうか? こちらを時々チラッと確認する。 「ひなた…ママに会えるかな…」 不安そうにるなが言う。 俺もすごく不安だけど、安心するよう、るなの背中をそっと撫でた。 話し終えた彼がこちらへ戻ってきた。 「佐伯優海は、僕の母です。…佐伯は旧姓だけど。母も会いたいそうなので、一緒に来て下さい」 俺たちは安堵して、彼の後ろをついて行った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加