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雨の中の出会い◆1
灼熱だった夏が過ぎ、ようやく少し涼しくなってきた秋。
今朝のニュースで天気の急変はないと予想されていたのにも関わらず、会社を出て少しして大雨に見舞われた。
スーツはびしょ濡れ、髪もセットが台無しになっている。仕方なく雨宿りするために軒下へ避難した。
駅前のコンビニへ行くにしても、まだ距離はいくらかある。
どうするか思案していると、雨に打たれたのかびしょ濡れの人が同じ軒下へ駆け込んできた。
隣の人は髪と顔をハンカチで拭いていて、わからないが服装から男だろう。背はかなり低い。濃茶の髪が濡れてうねりが増したのか毛先を気にしているそぶりを見せた。
拭いていたハンカチが離れ、現れた顔は見たことがあった。
「君は……」
思わず声をかけてしまい、不思議そうに視線を向けられる。
「あ、あなたは18番、セブンスター7ミリのお客さん」
驚き混じりに紡ぎ出された言葉は、俺がよく彼の働くコンビニで購入していた銘柄のタバコだ。
「君は確か……瀬名くん?だったかな」
「はい。あの……お客さんは?」
「俺は相沢将朔。瀬名くんの名前は?」
「ぼくは瀬名芳乃って言います」
しっとり濡れた髪から滴る雫越しに見つめられた瞳は、どこまで澄んでいて綺麗だった。
彼の体に視線を落とす。華奢でスリムな躯体を覆う白シャツは雨に濡れて透けて、肌に張り付いている。肌着を着ているのか乳首まで透けてはいないが、扇情的で目のやり場に困った。
まさかこのまま濡れた服で帰るつもりだろうか。
「瀬名くん、傘は?」
「それが……さっき道で困っているお婆さんに貸してしまって」
見ず知らずの人が雨で困っているからと傘を貸すなんて想像どおり優しい人だ。
彼はコンビニに居た時もそうだった。
部下のミスでクライアントから大目玉くらって息抜きにタバコでもと、ビル内のコンビニへ買いに行った時のこと。「お仕事お疲れ様です」と優しく微笑む彼に荒んだ心が癒された。
瀬名くんにとって大したことのない言葉だったのかもしれないが、俺にとってはすごく励まされた気がしたんだ。
その時から彼の様子が気になって仕方なかった。
そんな彼なら雨に打たれ困った老人が居たら、傘ぐらい貸してしまうだろう。
「まだ暫く止みそうにないな。もう少し雨宿りしていくかな」
「そうですね。駅前のコンビニで傘を買おうかと……」
彼の優しい瞳が雨空を見上げ、その横顔は綺麗で目が離せなかった。
「相沢さんはお仕事お終いですか」
「ちょうど終わって駅に歩いてる途中で降られた。ついてないなぁ」
「今日もお仕事お疲れ様です」
真っ直ぐ向けられた瞳が細められ、広角を上げて笑う顔にドキリとさせられた。
男なのにパーツが小さく可愛らしい顔立ちは、まるで少年のようでまだあどけなさが抜けきっていない。
「瀬名くん、バイトは?」
「さっき終わりました。今日は大学お休みなので一日バイトでした」
「え!君って大学生なのか?」
てっきり背が低く少年のような顔立ちから高校生かと思っていたが違ったらしい。
衝撃的な事実を知ることになったが、年齢なんてどうでも良かった。
ただ彼に癒されたいと望む自分がいる。
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