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コンバースを買ったら服も欲しくなって、知覧の私服を参考に一式揃えた。落合達也はそれを着て家を出た。今日は彼女とデートだ。
「おまたせえ」
カナが現れた。ラベンダー色の華奢なワンピースがよく似合っている。洋服の似合う似合わないは骨格も重要なのだと、達也は先週、身をもって知った。
「カナちゃん、すげー似合ってんね、その服。つかめっちゃスタイルいい」
「えー、嬉しい。ター坊も今日の服いいね。私、そういうの好き」
参考にしたといっても、バイト帰りの服だ。オシャレをしている意識はないが、女の子はこういう服が好きなんだろうか。
カナはストレートの黒髪を撫でて整え、「いこっ」と腕に絡みついてくる。誕生日にあげた腕時計が目に入った。三万の出費は痛かったが、気に入ってくれたのなら満足だ。
女装した影響か、いつもは退屈なウィンドーショッピングが結構楽しい。あれなら俺でも着れるかも、なんて想像してみるのだ。
「ちょっと私には可愛すぎるかな? ねー、ター坊どう思う?」
袖が童話のお姫様みたいに膨らんだブラウスを手に、カナが言う。
「カナちゃんなら着こなせるよ」
女性用の服が似合わない筈ないじゃないか。
「そうかな? ちょっと試着してみていい?」
カナは満更でもなさそうに言い、試着室へ消えた。
彼女が試着している間、達也は気になっていたラックへ向かった。ウエストに絞りのある変形Tシャツだ。可愛らしい服よりも、自分はこういう方が似合うんじゃないか。オーバーサイズだから肩幅も誤魔化せそうだ。
値段を見る。五千九百円もするのか。店員が近づいてきて、「二点で15パーオフになりますよ」と焚き付けてくる。
「あの袖が膨らんでるやつっていくらですか」
余計高くなるのに、そう聞いていた。店員が小走りで値段を確認しに行く。三千七百円と、Tシャツよりも手頃な値段に驚いた。目利きできたみたいで嬉しい。
袋を分けてもらい、二つとも購入した。一人で女の店に入るハードルを考えたら、安いものだ。
「えっ……いいの? ありがとうター坊ッ!」
試着を終えたカナがくっついてくる。
「カナちゃん、それで、ちょっと頼みがあんだけど……」
「ええー? 普通にくれるんじゃないのー?」
カナがぷっくりとむくれた。かわいい。
「えっとね、俺のこと、達也って呼んで欲しいの。ター坊じゃなくって」
カナが大きな目を丸くする。
「達也?」
「そうっ! 俺たち付き合ってんだしさ」
カナが大きな目をぱちぱちさせる。女の子ってどうしてこんなにかわいいんだろう。女装した自分など、さぞ不気味に見えたことだろう。
「えと……私たち、いつ付き合ったんだっけ?」
「え?」
カナが困った顔をする。かわいいけど、怖い。怖いのに、こっちが困らせてるみたいでなんだか申し訳なくなってくる。
「なんか……ごめん」
とりあえず謝った。
「ううん、私も、ター坊が勘違いするような行動、知らないうちに取っちゃってたかもしれない」
達也はちゃんと、「好きです」と告白してから「俺と付き合ってください」と勇気を出して言ったのだ。そしてカナは「私でよければ」と頬を染めてオーケーしてくれた。カナの言い分には無理がある。でも抗議するのは惨めすぎる。お前はもう好きじゃない、と言われているようなものなのだから。
「ター坊、これ、ありがとうねっ」
今の会話を打ち消すような明るさでカナが言い、達也は「どういたしまして」とぎこちなく笑うしかなかった。
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