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「ター坊がたそがれてんべ」
けけっ、とあっくんに笑われ、落合達也はふいっと窓を向いた。前庭では不良グループがバスケを楽しんでいる。
「カナちゃんにフラれたか」とぐっさん。
「ブッブー」達也は唇を突き出した。
「ちんぽこが勃たなくなった」
「ブッブー」
「兄貴が逮捕された」
「あのインチキ企業、とうとう摘発されたべか」
「俺のにいちゃんを勝手に犯罪者にすんな」
「逮捕されてないだけでやってることは犯罪だろ」
「仕方ないべ。三大企業に就職できなきゃみんな負け組。三ヶ月で退職、からの闇バイトが赤工生のデフォルト進路だべ」
指についた耳クソをフッと息で飛ばし、あっくんが言った。三大企業とは地元の優良企業のことで、指定校推薦でしか高卒は採ってくれない。名前を書けば入れるようなバカ高だが、三年間成績上位をキープすれば、大卒でもなかなか入れない企業に就職できるのだ。
その枠を勝ち取ったのは、達也の電子機械科ではぐっさん一人。あっくんは僅差で機械科の不良、知覧那月に負けた。
あっくんは恨めしそうにドリブル中の知覧を眺める。周りが大柄だから小柄に見えるが、近くを通りがかると達也よりもずっと背が高い。達也はギリギリ170センチ、知覧は180センチも超えていそうだ。
「とかいって、ちゃんと公務員試験にもエントリーしてんだからすごいよな、あっくんは」
達也は本音を漏らした。自分は進級すら危うかった。あっくんは「負け犬」と自虐するが、腐らず次の進路を目指しているだけ偉いと思う。
「おめえはほんとお人よしだべ」
「ター坊、お前は進路どうすんだよ」
「俺はとりあえずフリーターかな。今のバイト先居心地いいし」
「ふうん、まあ、良いんじゃねえの」
「オレも言ってみてえ。フリーター……でもダメだあ。オレの母ちゃんうるせえんだよ。三河工業が無理なら公務員。中小企業なんかもってのほかだって……」
あっくんは机に突っ伏した。「ター坊が羨ましいべ」
「お袋さん、フリーターでも良いっつってんのかよ」とぐっさん。
「犯罪さえしなきゃなんでも良いって」
「それで兄貴が犯罪してんだから泣けるべ」
「ほどほどにしとけよ」
達也だって懲り懲りだ。
「でもそれじゃあ、ター坊は何に悩んでんだ?」
「言ったって信じないと思う」
達也が言うと、あっくんとぐっさんは目を丸くし、互いを見合った。深刻な悩みだと思ったらしい。
実際深刻だ。赤工生の禁断愛を知ってしまった。あれから足元ばかり見ているが、それらしいローファーは見かけない。俯いてばかりいるから、教師にも心配された。
「……それに、言えるような内容じゃない」
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