兄弟

3/14
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「ター坊がたそがれてんべ」  けけっ、とあっくんに笑われ、落合達也はふいっと窓を向いた。前庭では不良グループがバスケを楽しんでいる。 「カナちゃんにフラれたか」とぐっさん。 「ブッブー」達也は唇を突き出した。 「ちんぽこが勃たなくなった」 「ブッブー」 「兄貴が逮捕された」 「あのインチキ企業、とうとう摘発されたべか」 「俺のにいちゃんを勝手に犯罪者にすんな」 「逮捕されてないだけでやってることは犯罪だろ」 「仕方ないべ。三大企業に就職できなきゃみんな負け組。三ヶ月で退職、からの闇バイトが赤工生のデフォルト進路だべ」  指についた耳クソをフッと息で飛ばし、あっくんが言った。三大企業とは地元の優良企業のことで、指定校推薦でしか高卒は採ってくれない。名前を書けば入れるようなバカ高だが、三年間成績上位をキープすれば、大卒でもなかなか入れない企業に就職できるのだ。  その枠を勝ち取ったのは、達也の電子機械科ではぐっさん一人。あっくんは僅差で機械科の不良、知覧那月(ちらんなつき)に負けた。  あっくんは恨めしそうにドリブル中の知覧を眺める。周りが大柄だから小柄に見えるが、近くを通りがかると達也よりもずっと背が高い。達也はギリギリ170センチ、知覧は180センチも超えていそうだ。 「とかいって、ちゃんと公務員試験にもエントリーしてんだからすごいよな、あっくんは」  達也は本音を漏らした。自分は進級すら危うかった。あっくんは「負け犬」と自虐するが、腐らず次の進路を目指しているだけ偉いと思う。 「おめえはほんとお人よしだべ」 「ター坊、お前は進路どうすんだよ」 「俺はとりあえずフリーターかな。今のバイト先居心地いいし」 「ふうん、まあ、良いんじゃねえの」 「オレも言ってみてえ。フリーター……でもダメだあ。オレの母ちゃんうるせえんだよ。三河工業が無理なら公務員。中小企業なんかもってのほかだって……」  あっくんは机に突っ伏した。「ター坊が羨ましいべ」 「お袋さん、フリーターでも良いっつってんのかよ」とぐっさん。 「犯罪さえしなきゃなんでも良いって」 「それで兄貴が犯罪してんだから泣けるべ」 「ほどほどにしとけよ」  達也だって懲り懲りだ。 「でもそれじゃあ、ター坊は何に悩んでんだ?」 「言ったって信じないと思う」  達也が言うと、あっくんとぐっさんは目を丸くし、互いを見合った。深刻な悩みだと思ったらしい。  実際深刻だ。赤工生の禁断愛を知ってしまった。あれから足元ばかり見ているが、それらしいローファーは見かけない。俯いてばかりいるから、教師にも心配された。 「……それに、言えるような内容じゃない」  
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!