兄弟

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「下を脱いで、机に手をつきなさい」  響く声に、知覧那月は素直に従った。安形が作ってくれた料理が嫌でも目に入る。さっき一口食べたせいで、余計に腹が減った。食べたいのに食べられない。きゅるるっと鳴った腹を、背後の男がそろりと撫でた。それだけで股間が硬くなってしまう。それを期待して来たのだと思われたくなくて、那月は弁明の言葉を考えるが、防備な尻を撫で回されるとたちまち思考が散ってしまう。 「どうしてここにいる?」  安形の兄、春人が耳元で囁く。視界を横切った彼の指がヨーグルトソースを掬い上げ、つぷり、と秘部に注がれる。ハサミのように動かす指はいつもより荒々しい。怒っている。 「ぁっ……ひっ……ごめッ……なさッ」 「いつ、どこで知り合った」  知り尽くされた弱いところを集中的に責められ、背中にブワッと汗が噴き出した。 「あッ……んッ! いっ……かげつ……まッ……くッ」  くちゅくちゅと卑猥な音が真昼の食卓に響く。安形の料理が、彼そのももの存在みたいで、羞恥心と罪悪感で胸がギュッと締め付けられた。でも快楽を与えようとする手には抗えず、艶っぽい声が溢れてしまう。 「どこで」 「んッ、川にっ……出る、道でッ……」 「そういえば痣つけて帰って来た日があったな。あれ、お前がやったのか」 「ぁっ、アッ!」  腰が揺れ、机まで伝わって食器が揺れた。 「智史の料理、倒すんじゃないぞ」  自分だって倒したくない。けれど内腿がブルブルと震えてきた。彼のものを受け入れたら、危ないかもしれない。 「っ……ここっ、じゃ……ッ……」  カチンと皿が鳴った。安全圏にサラダの皿を移動させようと手を伸ばしたら、ガラスコップを倒してしまった。倒れた口から麦茶が溢れ、机、床をヒタヒタと濡らしていく。  パチンと尻を叩かれ、性器からとろりと蜜が零れた。やんわりと片手で包み込まれ、蕩けるようなため息が漏れてしまう。 「悪い子だ」  指よりも質量のある、硬いものが当てがわれ、那月はフルフルと被りを振った。逃げようとしたが腰をガッチリと掴まれ、ジリジリと、硬いものが押し込まれていく。 「んんッ!」  腕がプルプルと震えた。十分に綻んでいないそこが無理やり開かれ、身を捩りたくなるような痛みに襲われる。けれど痛みの中に那月は快感を見つけてしまう。腰が密着し、狭道にそれ以上のものが格納され、堪えきれずにあっけなく達した。白濁したものがびゅっと迸る。 「んあッ……ぁあっ」  放埒の余韻に浸る間もなく、抽挿が始まる。ガクッと前のめりに落ちそうになったのを、後ろ手に両手を取られ、グイッと引き上げられた。ゆみなりに上体が反り返り、押し込まれたものが角度を変え、あらぬところを刺激する。 「はッ……ぅ、あッ……くるしッ」 「智史に近づけば、俺が嫉妬するとでも思ったか」  違う。首を振って否定したくても、ズンッと突き上げられ、顎が上を向いてしまう。 「あっ、あ……ぁッ!」 「それとも智史に惚れたか? 智史は俺よりいい男だろう。あいつは性格も良いし人望もある。何より裏表がない」 「おれ、はっ……はるッ、とッ……さんがッ!」 「兄さん」 「あ、あッ……にい、さんがッ……」  喉元に「好き」が引っかかる。言ったってこの人は弟、智史からの言葉だと受け取るのだ。那月は弟の代替だ。それを承知で始めた関係なのに、いつしかそれ以上を望むようになってしまった。兄弟ごっこではなく、恋人になりたい。 「お前は本当にかわいいよ」  激しく穿たれ、痺れるような快感に視界がにじんだ。 「あいつに嫉妬する必要はない。お前とあいつは違う。真似ようなんて無駄なことはするな」  見抜かれている。こめかみが恥ずかしさでチリリと痛んだ。春人の愛する弟がどんな奴なのか知りたかった。財布の中にあった学生証を見た時、こいつが、という驚きと嫉妬で腹の中がドロドロになった。春人さんはこいつに惚れているのだ。俺はこいつが不在の日にしか春人さんに会えないのに、こいつは彼と毎日顔をつき合わせているのだ。こいつみたいになれば、春人さんは俺のことを見てくれるだろうか。 「机に手をつきなさい」  片方ずつ解放され、慎重に、机に両手をつく。「動くぞ」と囁かれ、先端から期待の蜜が滴る。  ずるっと中のものが擦れ、カタカタと身体が快感で震えた。 「ああッ……ぁ、にいッ、さっ……」 「抱かれてみるか、智史に」  那月の気持ちを知っていて、残酷なことを言う。 「んッ……や、あっ……」 「俺のことが好きなら抱かれてきなさい。兄弟の絆を深めよう」 「あ、おれッ……そん、なのッ……やっ、ああっ」  実の弟には手を出せないから、那月の体を通して弟を愛したいのだ。 「嫌じゃない。兄さんの言うことが聞けないのか?」 「やっ……ひっ、ああっ」  中のものが限界まで引き抜かれ、一気に最奥まで突き上げられる。熱い場所を何度も擦られ、さざなみのような快感が熾烈なものに変化する。それが近づいてきたのか、抽挿が激しく、小刻みになる。 「いくぞ」 「ん、あアッ!」  どくどくと彼の昂りを肉筒に受け止めながら、那月は安形に近づいたことを後悔した。あいつに近づかなければ、好きな人に「抱かれなさい」なんて言われることはなかった。彼の好みになりたかっただけなのに、最悪な展開だ。  引き抜かれ、腰が砕けた。濡れた床にへたり込む。注がれたものがとろりと溢れ、自分は何をしているんだろうと虚しくなった。
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