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安形智史が戻った時、知覧はテーブルを拭いていた。「悪い、こぼした」と申し訳なさそうに言ってくる。テーブルを拭くのに使っているのはハンカチだ。
「いえ……気にしないでください」
急いで棚から布巾を取り出し、彼に代わって机を拭いた。料理は全然減っていない。食べていいと言ったのに、待っていてくれたのだ。いじらしい彼に胸が詰まった。彼の赤い頬を見る。必要以上に気にして、罪悪感を感じているのだと思ったらたまらなくなった。もう我慢できない。彼の気持ちを確認したい。言葉を選ぶ余裕もなかった。
「知覧さんは、俺のこと、好きなんですよね?」
麦茶を吸い込んだハンカチごと、知覧の手を握った。目が合ったら食われるとでも思っているのか、彼はこちらを見ようとしない。ローストビーフをジッと見つめている。
「そうじゃなきゃ連絡先なんて教えませんよね。それにあの鯖弁当、同級生にバレないように、わざわざトイレで食ったんでしょ。ラインだって、俺、彼女とだってこんなに続いたことないですよ」
「彼女……いんのかよ」
ワッと細胞が跳ねた。
「いません」
強張った頬に詰め寄り、「知覧さんは?」
「……い、ない」
「なら付き合いませんか」
知覧はギョッとこちらを向いた。震える瞳と至近距離でかち合う。智史は唇を近づけ、その直前で一旦止めた。逃げないことを確認し、触れる。
拒まない唇を舌でこじ開け、彼のものを絡めとる。腰に手を回すとびくりと震えた。淡白な顔に反して体は感じやすいらしい。そういう経験があるのだろうか。手を腰から尻へ滑らせると、従順な唇がパッと離れた。
「今日、はっ……むり」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。理解した瞬間、断られたのに股間が反応した。
「すみません……」
気を取り直して「食べましょうか」と机を周り、向かい合う席についた。知覧も座る。
今までの恋人はなんだったんだろう。そう思ってしまうほど、目の前の男が愛しくて仕方がない。一ヶ月前まで関わったこともなかったのに、今は机の距離すらもどかしい。
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