最終話 お姉ちゃん、これって

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 さて、ここでひとつ、『算数』の問題を出そう。小学生でもわかる、簡単な『算数』だ。  A君はテストで100点を取りました。B君は同じテストで70点でした。ふたりの平均点は何点でしょう?  答えは計算するまでもなく、85点だ。  では少し、意地悪をしよう。平均点の85点は固定の数値とする。A君の100点を取りたいと言う願いが強く、A君の100点は確定している。  以上の事項が揺るぎない時、B君の点数は何点でしょう……  そう。どんなに勉強を頑張っても、B君はテストで70点しか取れないのだ。  そんなおかしな話があるか。と思うかも知れない。しかし、今のこの国で、これに似た事例が発生しているのだ。  数字をそのまま。A君、B君を国民全員と。テストの点数を『生きることができる年数』と置き換える。  平均寿命が85歳であることは揺るぎない。なのに100歳まで生きたいと強く願う者がいる。  『人生百年』などと、なんの根拠もないような標語染みた言葉さえ世間に浸透しているほどだ。  だが、85歳という平均寿命の事実は変わらない。  100歳まで生きようという機運が強まり、100歳まで生きたいと強く願う者が増えれば増えるほど、パパのように平均寿命を全うできずに早死にする者も多くなるのだ。  私はそんな、小学生レベルの算数さえ理解できない連中の願いによって。早くこの世を去らなければいけない宿命を背負ったのだ。  無知で無責任な、自分勝手な標語でさえ、人の寿命を左右させてしまう。なんとも恐ろしい事例だと思わないか。  ただ間違いなく、『人生百年』などと一見、根拠がなさそうな標語も。現実味を帯びる時代がやって来るだろう。  今は85歳である平均寿命も、どんどん長くなるであろう。  実花、貴美。  無知で無責任な、自分勝手な呪文などに負けず。君達が思い願った人生を全うして欲しい。  パパはそのための全てを用意したつもりだ。あとのことはふたりに任そう──
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