最終話 お姉ちゃん、これって

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 私と貴美は、生まれ育った横須賀の丘の上に建つ一軒家でふたり暮らしをしている。  私達が生まれた頃はパパもママもいて、4人で暮らしていたけど。  私も貴美も大学生となった今。パパは病気で亡くなり、ママはそれを理由にこの家を捨てて実家へと帰ってしまった。  私と貴美は横浜にある別々の大学へと通う(かたわ)ら、パパが(のこ)してくれた事業を継いでいるので。学生でありながら、月額に直したら大卒の初任給以上の収入を手にすることができている。  それも全て、生前にパパが(のこ)してくれたもの。しかも、私達ふたりだけに。  ママは最後まで、パパの本当の姿を知ることが叶わなかった。まさか自分だけがそのことを知らず、ふたりの娘達が協力してパパの跡を継いでいるなんて夢にも思っていないだろう。  パパも私達も思うとおり、パパとママの考え方は全てにおいて180度違っていた。パパはそんなママと上手いこと同居する(すべ)を身に付けていたようだけど。  未熟な私達には、まだそれがわからない。  なので私達はママと距離を置き、パパが遺してくれた事業を継ぐことに専念することを決めた。  その覚悟を決めさせてくれたのは、お祖父(じい)ちゃんの遺影の裏に隠してあったパパからの手紙だ。  私も、妹の貴美も。パパの言うとおり、どちらかと言うとパパ側の人間。ママが属する、『その他大勢の人達』と交わるには、私達にはまだ修行が足りないのだと思う。  それが、私自身が自分勝手に生きていると感じた理由。でもそれを、パパが(のこ)した手紙が宥めてくれた。  私にも私らしく生きる方法があることを、パパが導いてくれた。  パパやヒデさんがそうであったように。もしかしたら私にもママ達、『その他大勢』のいる世の中のことを知りたくなる時が来るのかも知れない。  その時まで。私は妹の貴美と、生まれ育った横須賀の丘の上に建つ一軒家でふたり暮らしを続けるつもりだ。 (完)
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