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第一話 今後のことを、話しておきましょう
黄色と白のツートンカラーが可愛くて気に入っている軽のワゴン車。免許を取得してすぐに衝動的に、しかもキャッシュで購入した私の愛車。
京浜急行の横須賀中央駅に近い、三崎街道の平坂を下った先の線路をくぐるガードの手前。
駅前のショッピングセンター、MORE'Sに入るお花屋さんの軒先とは歩道を挟んだ車道にある車停めに停車させてハザードランプを灯す。
するとちょうどガードの上に、右からトンネルを抜けて駅へと滑り込む真っ赤な上りの電車が見える。
ふと助手席のガラスを誰かがノックするのでそっちを見ると、腰を屈めるようにして見慣れた笑顔が映るので助手席の窓を開ける。
「ミカと同じ珍しい色の車が停まってると思ったら、本当にミカだった」
まだ少し寒いのではないかと思わせるような春らしい薄手のコートを着たロングヘアーの彼女は、そこの2階にあるカフェでほぼ同時期にバイトを始めた同僚。歳も一緒だ。
私と違って家族と一緒に住んでいる彼女は週末もシフトに入っている。ちょうどバイトを終えて店から出てきたところだったのだろう。
「どうしたの?誰かを迎えに来たの?」
『横須賀中央駅前』というバス停は京急の駅とは距離があるものの、その路線網は充実している。私も横浜にある大学への通学には、バスと京急を使っている。
自宅からはJR横須賀線の衣笠駅のほうが最寄りなのだけど。この駅前の店でバイトしているし。本数や乗車時間を考えたらバスに乗ってでも京急を使ったほうが便利だ。
でも、もし送り迎えをしてくれる足があるなら。こうして車で来たほうが何かと都合が良い。
「うん。妹を迎えにね」
私が言うと、彼女は納得するように何度も頷きながら言う。
「ああ…… いつか言ってた、母方についた妹ちゃんね」
あれ?私、彼女にウチの事情を話したこと、あったっけ?
「そうそう、その妹」
彼氏とどこかで待ち合わせでもしているのか。スマホの画面を見て、いけないっ。と呟いた彼女は、私に一方的に別れを告げるとMORE'Sのほうへと足早に歩いて行ってしまった。
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