偶然か必然か

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レントゲンを撮ると、瑞樹の肺にはモヤモヤとした白い影が見える。ここが炎症を起こしている部分なのだと、医師から説明を受けた。 健一から聞いていた話と同じ。 これから五日間は、点滴による治療が行われるそうだ。 検査の後、午後の診察までには帰らなければいけないと、健一は病院を出た。次に彼が来るのはクリニックの休診日である木曜日だ。 そこで付き添いを交代し、透子は一旦、自宅マンションに帰るつもりでいる。 病室に戻った瑞樹の腕には点滴のチューブが繋がれた。その姿はあまりに痛々しいのだが、本人は「ロボットみたい!」と興奮気味。 「瑞樹、あんまり騒ぐと痛くなるよ。」 「はーい!」 わかっているのかいないのか、瑞樹は元気いっぱいに返事をした。やれやれと、透子の眉毛が下がる。 ぐったりしていないだけでも、良しとしなければ。 「何か観る?」 透子は、テレビの横に積み重なっているDVDに手を伸ばした。 「ばたせんがいい!」 ばたせん…? …あぁ、『バタフライ戦記』ね。 「おっけー。」 同じようなアニメのパッケージの中から『バタフライ戦記』を探し出して、DVDプレイヤーにセットする。途端に瑞樹はおとなしくなり、テレビ画面に釘付けになった。 何度も観ている映画のはずだが、瑞樹はまるで初めて観るかのような反応をしている。よほど好きなようだ。 しかし30分もするとウトウトとし始め、終いにはぱたんとベッドの上に倒れてしまった。 いつもなら保育園で昼寝をしている時間だろうし、環境の変化にも疲れたに違いない。 瑞樹に布団を掛けて、額を撫でる。スヤスヤと眠っている顔は、いつ見ても可愛らしい。 しかし今日から何日間かは、瑞樹はこのベッドから離れることができないのだ。 腕に繋がれた点滴のチューブを目で辿りながら、ため息をついた。 五分ほど、点けっぱなしになっていたアニメを眺めていた。しかしふと思いついて、透子は病室を出た。 確か、1階にはコンビニがあったはず。 入院患者である瑞樹にはもちろん食事が出るが、付き添いである透子には何もない。瑞樹が寝ている間に、自分の食べ物や飲み物を買いに行こうと思ったのだ。 そして、エレベーターホールへ行くためにスタッフステーションの横を通った時、「ユウト」というワードが聞こえたような気がしてハッとした。 見ると、あのSTERAのボールペンを持っていた看護師が、年配の看護師と話をしている。何かのファイルを開いて指さしながら、真剣な顔で。 …気のせい、かな。 きっと仕事の話をしているのだろうに。 その三文字だけが耳に入ってくるとは、自分に呆れた。
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