偶然か必然か

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夜、病院に着いた頃には、夕食の時間は終わっていた。 しかも、瑞樹はすでに夢の中。 「ゆっくりできた?」 健一は瑞樹のベッドの横で、イヤホンをつけてテレビを観ていた。 「ごめん、遅くなって。ちょっと横になったら寝ちゃった。」 あの後、透子がリビングで目を覚ました時には午後5時を過ぎていた。慌ててマンションを飛び出して来た、というわけだ。 「入院生活で、透子も疲れてるよな。ごめん。」 「ううん、大丈夫。」 透子は荷物を自分用のベッドの上に置くと、瑞樹の寝顔をそっと覗き込んだ。すうすうと寝息を立てて、気持ちよさそうに寝ている。 この顔に、いつも癒やされる。 「今日の午後に点滴が外れてさ、少しなら部屋を出てもいいって言われたんだ。プレイルームに行って遊んだんだけど、それが相当楽しかったみたいで…でも、きっと疲れたのかもな。」 優しい眼差しで、健一もその寝顔を見つめた。 「そっか…。」 何も繋がれていない瑞樹の細い腕には、点滴の針の跡がいくつか残っている。 入院して4日。 ずっとベッドの上から動くことができなかった瑞樹にとって、病室の外は新鮮な空間だっただろう。 もう少しで、この日々も終わる。 透子は、ホッと息を吐いた。 「じゃあ、そろそろ行くね。」 「あ…うん。」 健一が思い出したように椅子から立ち上がった。 このまま何もなければ、瑞樹は土曜日の午後に退院できることになっている。健一は午前の診療が終わり次第、駆けつけてくれると言う。 透子は、健一をエレベーターまで見送った。 「また土曜日に。」 「うん、ありがとう。」 この時、時刻はまだ午後8時前。 再び病室へと戻るも、特に何もすることがない。 二時間近くも昼寝をしてしまったために眠くもないし、特に腹も減っていない。持ってきた小説もほとんど読み終えてしまった。テレビも見る気にはなれない。 透子は自分用のベッドに腰掛け、瑞樹の寝顔を眺めた。 しばらくして、ベッド脇の棚の上に無造作に置かれていた院内施設の案内用紙に気づく。 何気なく手に取り見ると、最上階の展望室が目に止まった。開室時間は、午後8時半までとある。 瑞樹は変わらずに、すやすやと眠っている。きっと、明日の朝まで起きることはないだろう。 30分くらいなら…ここを離れても大丈夫かな。 透子はベッド脇のライトの光量を最小限にすると、カーテンを閉めて病室を出た。
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