偶然か必然か

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ユウトは少しだけ身を乗り出す。直径60cm程しかない丸テーブルの上で、二人の距離が近づいた。 思わず、息を呑んでしまう。 「ファンクラブイベントの日…勢いで透子さんにあんなひどいことを言って、後悔してた。本当はあんなこと言いたいわけじゃなかったし…謝らなきゃって、思ってたんだ。」 そう言ってユウトは、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。 「…ユウトが、謝ることないよ。」 全ては自分が悪いのだから。 ユウトは何も悪くない。 あの時のユウトの反応は必至のもので、謝る必要などどこにもない。 ごくん、とカフェラテを飲む。 そんな透子の様子を見て、ユウトがおもむろに口を開いた。 「…透子さん…多分、勘違いしてる。」 「え?」 「もちろん、透子さんに子どもがいたことには驚いたけど。でも俺がショックだったのは、そこじゃなくて。」 ゆっくりと、一言一言を確かめるようにユウトが話し始める。 透子のことを見つめながら。 「俺がショックだったのは…本当のことを話してくれなかったこと。バツイチだからって、子どもがいるからって理由で、相談もなしに俺のことを一方的に切り離したこと。」 「だってそれは…っ。」 大きな声が出そうになり、透子は一度、深呼吸をした。 「…ユウトは芸能人で、ファンも大勢いて、これからまだまだ上を目指していくんだから。私みたいな女と一緒にいたら…。」 世間から、何と言われるか。 大好きなユウトが、心ない言葉で叩かれるのは嫌だった。 しかしユウトは、意外な言葉を口にした。 「…そんな透子さんといたら、俺は芸能人じゃなくなるの?もう、上には行けない?」 透子は、眉をひそめる。 「俺は透子さんと一緒にいても、STERAのユウトであることには変わりないよ。これからも芸能活動は続けていくし、もっともっと上を目指していく。」 「……。」 ユウトが発している言葉自体は、もちろん理解できる。しかし、その真意がわからない。 「…何、言ってるの?」 なぜか怖さを感じて、透子は体を引いた。カフェラテのカップを両手で包み、震えそうになる手を抑える。 するとユウトは、恥ずかしそうに笑った。 「…俺は…透子さんと瑞樹くんのそばにいたら、ダメ?」 フロア内に流れていた心地よい音楽がプツっと途切れた。代わりに、まもなく消灯時間であることを知らせる内容の無機質な音声が流れ始める。 周りを見れば、先ほどまでいた入院患者たちの姿はなかった。いつの間にか、それぞれの病室に戻ってしまったらしい。 視線を戻すと、ユウトは透子のことをじっと見つめ続けている。 「俺は…。やっぱり透子さんと一緒にいたい。」
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