不審者、再び

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不審者、再び

瑞樹と暮らし始めてからの月日は、驚くほどあっという間に過ぎて行った。 春になると、瑞樹は透子が住む街の保育園に転園した。新設された園ということもあり、年長組ともなると子どもの数はたったの8人。 寂しいかと思っていたが、人数が少ない分、保護者も含めて濃密で楽しい保育園生活を過ごすことができたと思う。 夏、透子はシャインドラッグ東大通り薬局の薬局長へと昇格した。柳が新店舗の薬局長を任されることになり、異動したからだ。 とはいえ同じ市内であることには変わりがなく、今でも柳にはお世話になっている。 秋が深まった頃には、ゆりあが付き合っている税理士の彼からプロポーズをされた。しかし、結婚しても子どもができても、仕事を続けることを宣言している。 頼もしい限りだ。 健一は、中途で入ってきた医療事務の女性から、猛アプローチを受けているとか。 そのことについて、なぜか透子は相談を受けたのだが、彼もまんざらでもないようだったので背中を押しておいた。 透子にしてみれば、健一に対してのそういった色恋の想いは全くない。瑞樹の父親として、責任を果たしてくれればそれで良い。 冬がやって来て雪がちらついた日には、楠本香里奈の熱愛報道が出た。夏頃から、韓国へと渡って映画の撮影をしていた彼女は、共演している俳優と恋に落ちたらしい。 報道陣に囲まれた楠本香里奈は、「ご想像にお任せします」ではなくて、今度は「真剣にお付き合いをさせていただいてます」と答えていた。 さらにユウトとの関係については、仲の良い仕事相手に過ぎないと説明した。 そして、そのユウトは…というと。 楠本香里奈とのドラマは、秋には特別編が放送されたほどで、好評だったのだろうと思う。 ユウト自身は夏のドラマにも出演し、その時は海の家の青年役だった。観てはいないが。 秋からは、STERA BOYSの全国ツアーが始まったらしい。そしてそれが終わると、恒例のカウントダウンライブ。 どうやら、ユウトの仕事は順調のようだ。 というのは、透子の目に入ってくる情報で知る限り、そう見えるということだ。 ユウトとはこの一年間、何も連絡を取っていない。LINEのトーク画面も自分が最後に送ったメッセージで終わったまま、一年以上が経っている。 もちろん、もう連絡を取り合うような仲ではないのだから当然といえば当然。 しかも、子どもがいる生活というのは毎日が目まぐるしく、透子のコミュニティも変わった。ユウトとの思い出に浸るような暇は、ほとんどなかった。 正直に言うと、忘れかけていた。  だから再びユウトが姿を見せた時には、一気に時間を巻き戻されたような、不思議な感覚に陥った。
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