不審者、再び

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よほど混まない限りは、店舗の裏の駐車場には従業員の車が数台止まっているだけ。 そこの薄暗い外灯の明かりですら避けるように、ユウトは店の壁に体を寄せて立っていた。 つい先ほどまでは、明るい店の真ん前を堂々とうろついていたというのに、おかしなものだ。 透子の姿を見ると、ユウトはマスクを顎まで下げて気まずそうに笑った。 「透子さん…。」 そう言いながら、遠慮がちに近づいてくる。 「ごめん、急に…俺…。」 「不審者。」 またもユウトの言葉を遮る。 え?と、ユウトは目を丸くした。 「何してるの。もう少しで、警察呼ばれちゃうところだったんだからね。」 透子は腰に手を当てて、ユウトを睨みつけた。 「今話題のSTERA BOYSのユウトが警察沙汰なんて、ワイドショーの絶好のネタになっちゃう。」 強い口調で畳みかける。 「…ごめん…。」 二人の距離は約1m。 ようやく外灯の下まで来たユウトは、まるで叱られた子どものように項垂れた。 しかし、弱い光に照らされて見えるユウトの顔は、相変わらず綺麗だ。 「だって…。連絡したら透子さん…会ってくれないんじゃないかと思って。」 「…そうかもね。」 透子は、薄茶色の瞳を見ながら答えた。 「どうしても話がしたかったんだ。だから…来た。」 ユウトが透子に、一歩近づく。 透子は一歩下がる。 「…この後、時間ある?」 そう言われて、透子はハッと気づいた。 そうだ。自分には今、時間がない。 「ごめん、時間ない。」 「えっ…。」 「瑞樹が一人で留守番してるの。早く帰らなきゃ。」 そう言いながら、透子はユウトの後ろに停めてある自分の車へ早足で向かう。 「ごめんね、また…。」 連絡する、と言いそうになったが留まった。 それを言ってはいけない。もう、ユウトと連絡を取り合うことはやめたのだから。 「ホント、ごめん。」 ロックを解除して運転席に乗り込み、エンジンをかける。 しかしその時、同時に助手席のドアが開いた。 「え…何…。」 ハンドルに手をかけたままフリーズしている透子に向かって、助手席に座ったユウトが息巻く。 「また、なんて、いつになるかわかんないから嫌だ。それに透子さん、絶対に連絡くれないし。」 「…は…?」 「俺も乗って行く。ほら、瑞樹くんが待ってるんでしょ、早く行こ。」 ほらほら、と急かされ、ワケがわからないままに透子は車を発進させた。 自宅マンションまでは、車で10分程度。 その間、助手席のユウトは窓の外を眺めながら、ずっと鼻歌を歌っていた。 『ねぇ、ダーリン』 STERAの、初期の頃のバラード曲。 僕と一緒に新しい人生を歩んでいこうよ、という内容の歌詞の曲で、STERAのバラード曲の中で透子が一番好きな曲だった。
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