不審者、再び

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ダイニングテーブルを挟んで、ユウトと瑞樹が無言で見つめ合っている。 それを、透子はキッチンカウンター越しに見守っている。 何とも不思議な、この光景。 結局ユウトは、透子のマンションの部屋までついて来た。 「懐かしー」などと言いながら楽しそうに。 ダメ元で、帰ってくれと伝えた。しかし、嫌だと突っぱねられた。 そうだ。 ユウトは、こうと決めたらなかなか考えを曲げたりはしない、意外と頑固な性格だった。 たまに困惑したりもしたが、そういう真っ直ぐなところが好きだったし、尊敬もしていた。 そしてその結果、今のこの不思議な状況に陥っている。 「…瑞樹くん、俺の顔に何か付いてる?」 ユウトは膝の上に手をそろえて置き、背中を伸ばした。まるで何かの面接さながら。 「………。」 瑞樹はその丸い目をくるくると動かしながら、テーブルの上に半身を乗り出して、ユウトの顔を覗き込む。 ちょうど風呂に入り終えたところだったようで、すでにパジャマ姿だ。 助けて、とでも言わんばかりの顔でユウトが視線だけをこちらに向けてくるので、苦笑いで返す。 透子だって、どうしたら良いのかわからないのだ。 瑞樹に何と説明するのが正解なのか。 知り合い? 友達? 推し? …元彼氏、とは言ってもきっと通じない。 だから透子はキッチンにいて、瑞樹が食べた朝食と夕食の食器を洗っている。 ゆっくりと。丁寧に。 しかしその時、瑞樹が思いも寄らない言葉を口にした。 「ねぇ。お兄さんは、ママとするの?」 しんと、室内が静まり返った。 瑞樹が何と言ったのか、頭の中で復唱する。 「…え?」 「…は?」 透子とユウトは、同時に素っ頓狂な声を出した。 さいこん…? …再婚? 「だって、パパはするんでしょ?だからママもするの?」 瑞樹はいたって無邪気な顔で、尋ねてくる。どこか楽しそうなその顔に、透子は肩を落とした。 数日前に健一から、クリニックの医療事務の女性と再婚することになったと報告を受けた。交際半年でのスピード婚。 しかし健一の恋愛に口を出すつもりは全くないし、彼が幸せならそれで良いと思った。 だから瑞樹に、健一の再婚については前向きなものとしてわかりやすく、しかも丁寧に説明したつもりなのだが…。 どうやら、うまく伝わっていなかったらしい。 パパが再婚するから、ママもするんでしょ?という、まるでゲームか何かのように考えているようだ。 自分は再婚など、する気もない。 さらには、ユウトとそうなることなど絶対にあり得ない。 …と思う。 しかし、ユウトの顔がみるみるうちに綻んでいく。 そして、「瑞樹くん!」と前のめりになったかと思うと…。 「俺、瑞樹くんのママと再婚してもいいの!?」 嬉しそうなユウトの声が、リビングに響く。 「うん!いいよ!」 そしてさらに嬉しそうな、瑞樹の返事。 思わず、手に持った皿を落としそうになる。 透子は呆れ顔で、楽しそうな二人を見つめた。
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