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ユウトは、自分に都合の良い解釈ばかりをする。
先ほどの瑞樹の言葉に対しても、一年前の透子のメッセージの内容に対しても。
恐ろしいほど素直なのか、あざといのか。見方によっては屁理屈と捉えることもできるかもしれない。
『ごめん』
『今は子どものことしか考えられない』
瑞樹の入院中にユウトに送った、最後のメッセージ。一緒にいたいという彼の気持ちに対して、それを断るつもりで送ったものだ。
『今は』と表現したのは、『今でなければいい』という意味ではない。
例えば、一年後ならユウトとのことも考えることができる、ということでは決してなかったということだ。
それなのに、ユウトはそこをつついてくる。
…一年待ったよ?
「…嘘でしょ?」
透子は呟いた。
ん?とユウトが不思議そうに首を傾げる。
「一年も…なんで?」
「なんで…って。」
「だって…ユウトは芸能人で、周りには綺麗で若い女の子がたくさんいるでしょ。それなのに何でわざわざ、バツイチ子持ちの私なの…。」
「わざわざ、って…。」
ユウトは眉毛を下げて、ため息をつく。そして何かを考えるように、視線を斜め下に向けた。
「…撮影で景色のキレイな場所に行ったら、いつか透子さんと一緒に来たいと思ったし、美味しいもの食べたら、きっと透子さんもこれ好きだろうなって考えた。新曲のレコーディングの時には、透子さんも聴いてくれるかもしれないと思ってめちゃくちゃカッコつけて歌った。」
そう言うと、ふふっと笑いながら視線を上げる。目が合った。
「まだ好きだから…俺、透子さんのこと。わざわざ、かもしれないけど。」
透子は無言のまま、ユウトのことを見つめ続けた。
どうしてそこまで、と思わずにはいられなかった。
自分はユウトに嘘をついていたし、傷つけた。それなのにユウトは、今でも自分のことを想ってくれていると言う。
「透子さんの迷惑にならないように、何年でも待つつもりだったけど…実際に俺が限界だったし、透子さんに他に好きな人ができたら困るって思って。」
いたずらっぽく、ユウトが笑った。
「好きな人なんて…できないよ。恋愛とか、してる余裕なかったし。」
泡だらけの皿をシンクに置く。
もう自分は、恋愛などというものとは無縁になるものだと思っていたのに。
「そ?…なら、良かった。」
「え?」
ユウトは立ち上がると、キッチンカウンターの上で腕を組んだ。そして透子の顔を覗き込むように、身を乗り出す。
「もう一回始めようよ、俺と。恋愛。」
綺麗なユウトの顔が、すぐ目の前に。
トクンと、胸が鳴った。
こんな胸のざわつきは、久しぶりだ。忘れかけていた感情が、湧き上がってくる。
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