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推しがパートナーになりました
「えっ…俺の写真集まで捨てちゃったの!?」
リビングのソファーに座り、洗いたての髪の毛をタオルで拭いていたユウトが、信じられないといった顔で透子を見る。
「だって、ユウトと別れた後だったし…見ると辛くなるから、全部処分しちゃった。」
透子はソファーの下で、洗濯物をたたみながら答えた。瑞樹が地域のバスケサークルに入ったこともあり、タオルやユニフォームなども合わせると、毎日の洗濯物の量が尋常ではない。
「…全部?」
「うん、全部。STERAのグッズとかも、ぜーんぶ。」
透子は大げさに、手を広げてみせた。
それを見たユウトが、まじか…と呟く。
夏。
ユウトと再び付き合い始めてから、三ヶ月が経った。
小学校が夏休みに入り、瑞樹は今日から健一のところへと遊びに行った。一週間ほど滞在する予定だ。
事情を全て知っているという健一の再婚相手の女性は、あっさりと瑞樹のことを受け入れてくれたらしい。
少し複雑な状況ではあるが、瑞樹が楽しそうにしてくれていることだけが救いだ。
そんな日にちょうど休みが取れたユウトは、瑞樹がいないのならと、今夜は泊まっていくと言う。
この三ヶ月の中で初めての、二人きりの夜。
「あの写真集、再販が追いついてないんだよ?今は買おうと思ってもすぐには買えないヤツなのに…。」
一昨年の冬に発売されたユウトのファーストソロ写真集は、二回ほど重版された。そして去年、某女性ファッション誌の国宝級イケメンランキングにおいてユウトが1位を獲得したことで、さらに購入希望者が増えた。
その結果、今ではファンクラブのサイトにおいても、売り切れの状態が続いているという。
透子はその写真集を予約して購入したものの、手元に届いたのはユウトと別れた後のことだった。したがって、中身を見ることもなくSTERAのグッズと一緒に処分してしまったのだ。
「中…見てないの?」
「うん。」
「1ページも?」
「うん。」
「俺のバッキバキに仕上がった筋肉とか、妖艶な着物姿とか、デート風の可愛いカットとか…何も?」
「うん、何も。フィルムすら開けなかった。」
透子があっけらかんと答えると、ユウトはわかりやすく肩を落とした。そして何かを思いついたのか慌ててスマホを手に取ると、誰かに電話をかけ始めた。
「…あ、杉山さん?ねぇ俺の写真集って、どうにか手に入らない?…違うよっ、事務所にあるやつじゃなくて、新品で欲しいんだって…。」
どうやら電話の相手は、マネージャーの杉山さんらしい。
妖艶とか、可愛いとか、自分で言うなんて…。
ユウトはどうしても、その写真集を見せたいようだ。なぜか必死なその様子に、透子は吹き出しそうになるのを堪えた。
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