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洗濯物を片付け終えてリビングに戻ると、ユウトが不満げな顔でスマホを見つめている。杉山さんとの電話は、終わったようだ。
「…写真集、もらえないって…。一冊くらいどうにでもなりそうなものなのに、ホント融通効かないよな。」
ぷくっと頬を膨らませてソファーに背中をもたれる。まるで、子どもが駄々をこねているようで、透子はおかしくなった。
27歳になったというのに、ユウトにはまだこのような一面がある。純粋すぎて、大人げない。
特に、透子に関わることに対しては一層。
「あまり無理を言ったら、杉山さんに迷惑だよ。」
笑ってはいけないと思いながら、キッチンへと入る。冷蔵庫を開けて、缶ビールを2本取り出した。
「俺の写真集、見たいとか思わないの?」
「まぁ…。でも、本物がここにいるじゃない。」
透子はなだめるつもりで言ったのだが、その返事が気に入らなかったようで、ユウトの眉間に深いシワが寄った。
「…なんか透子さん、最近冷めてるよね。俺が出てるドラマとかも観てないし、音楽番組も。STERAのライブも来ないって言うし。」
かなり不満そうな言い様。
それもそのはず。
ユウトはまた春クールのドラマに出演したのだが、透子は一度も観ることをしなかった。STERAのライブの際もVIP席を用意すると言ってくれたのだが、断ったのだ。
「ずっと応援はしてるよ。ユウトのこともSTERAのことも。」
はい、とビールを差し出すと、ユウトは口を尖らせながらそれを受け取った。
「じゃあ何で?…俺のこと、そんなに好きじゃなくなった?」
「そういうことじゃなくて。」
ユウトの隣に腰を下ろし、缶ビールのプルタブを開けた。一口飲んで、息を吐く。
「…好き、の種類が変わった気がしてるの。」
「………ん?」
「たぶん今は…ユウトがファンの女の子たちに笑顔を振りまいたり、ドラマでラブシーンを演じたりしてるのを見ることに、耐えられないと思うんだよね。」
ちらりと横を見ると、ユウトは真剣な顔をしてこちらを見ていた。
「推し活をしてた時はそういうユウトのことを推しとして見れてたのに…今はきっと嫉妬しちゃう。」
透子は、ふふっと笑う。
「全然キラキラしてないユウトをたくさん知って、一人の男の人としてユウトのことが好きだと思うから。だから、グッズとかは特に必要ない。」
こうやってユウトと過ごせる時間があれば、それで良い。この距離感が、今の自分にはちょうどいいのだ。
しかし…ユウトは?
「…どう思う?やっぱりそういうの、嫌?」
少し不安になる。
もしかしたら、前のような推し活をしてほしいと思っているのかもしれない。ステージやテレビでキラキラしている姿を見てほしい、グッズもたくさん買ってほしい、と思っているのかも。
すると、何も言わずに透子の話を聞いていたユウトが、急に抱きついてきた。
「…ぅわっ…。」
手に持っていたビール缶を落としそうになり、慌ててテーブルに置く。もう片方の手を後ろについて、どうにか体を支えた。
「嫌じゃないっ!すっげぇ嬉しい!」
ユウトはそう言って、透子を強く抱きしめる。
「え…っ、ちょ…。」
その腕からどうにか逃れようと体をよじらせるものの、今度は力任せに唇を塞がれた。
ユウトの愛情表現は時に唐突で、今でも戸惑ってしまう。
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