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どれくらいの時間が経ったのか。
シャワーをしていないから嫌だと、透子は拒んだのだ。ユウトとの二年ぶりのセックスは、綺麗で完璧なものにしたかった。
それなのに、ユウトは半ば強引に透子を寝室へと連れてきた。そしてベッドの上に横たわらせると、その唇と大きな手で、透子の体中を弄った。
行為の最中の記憶がほとんどないのは、ビールのせいではないと思う。たった一口のアルコールで、酔いは回らない。
貪るように求め合う、というのは、あのようなことを言うのだろうか。
何度繋がっても、物足りない。
何度達しても、また欲が湧き上がってくる。
ユウトの存在を確かめたかった。
ユウトの体温や息遣いや感触に、ずっと包まれていたかった。
それはきっと、ユウトも同じだったのだろうと思う。
体の中はまだ、じんじんと熱を持っていた。
間接照明に照らされた綺麗な寝顔に、透子は手を伸ばした。頬に触れると、しっとりと冷たい。
またこんなふうに、ユウトの寝顔を見つ
めることになるとは思わなかった。
時間が巻き戻ったような、しかしあの頃とは微妙に違う関係性。
これからが、きっと大変になることはわかっている。多くの人に迷惑をかけることになるかもしれないことも。
なんでわざわざこんなにも面倒な恋愛を選んだのだろうと、最近はそんなふうに思うこともある。
それでもユウトといたいと思ってしまったのだから、仕方ない。
私がファンだったら…嫌かもなぁ。
推しが、ワケありの女と付き合ってるなんて知ったら…。
そもそも彼女がいること自体、受け入れられるかどうか…。
透子は静かに起き上がると、サイドチェストの上に置いたスマホを手に取った。
画面を見ると、深夜1時。
明日…いや、今日は午前休を取っているので少しはゆっくりできる。
ユウトは、夕方から仕事だと言っていた。
シャワーを浴びてしまおうと、透子はベッドから出ようとした。しかしその気配に気づいたのか、ちょうど目が覚めたのか、ユウトの腕が後ろから伸びてきた。
「…どこ行くの。」
「あ…シャワー、浴びようと思って。」
腰に回された腕に力がこもる。
「…だめ。」
「だめって…だって私、汗でベタベタ…。」
透子が言い終わらないうちに、あっという間に押し倒されて、体勢は逆転した。まだ視界がはっきりしないような虚ろな目で、ユウトが見下ろす。
「…いいの。俺もベタベタだから。」
そう言って、透子の首筋に唇をつける。
「…ん…っ。」
ユウトは透子の片足を持ち上げると、太ももの間へと指を滑り込ませた。
微かに、くちゅ、という音がする。
「透子さん、えろ…。首にキスしただけで濡れてるよ。」
「だって…触るから…。」
そんな顔で、見下ろさないでほしい。
また、体が疼くから。
透子は耐えられずに、両腕で顔を隠した。
寸前、いたずらっぽくニヤリと笑う、ユウトの顔が見えた。
私の推しは、綺麗でカッコ良くて、背が高くて、歌とダンスが上手。たまに天然だけど努力家で、時に涙もろい。
甘えん坊だし、嫉妬深いところがある。
真っ直ぐで素直すぎて、ちょっと面倒臭いと思う時もあるけれど…。
それでも、やっぱり大好きで。
グッズも写真集も何もないけれど、私の『推し活』は、今もリアルで進行中なのです。
完
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