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「また連絡お待ちしてますね、高林さん」
美女にキス顔をもらってラブホテルから出ると、カラスが朝早くから生ごみを漁っていた。
向かいには、太った男が、酔い潰れて路上で座り寝している。早朝の空気は好きなんだが、ここはあまり好ましくないな。
電子タバコを咥えて、カラスが転がした卵の殻を見ていると、
「もういいわよ! 何が会社の飲み会よ! 信じられない!」
「涼子ちゃん、落ち着いて。ごめんね、この前も話したけど……」
「何度聞いても同じよ! だってキスしてたのよ? 若い子にでっれでれしちゃって、アンタがそういう趣味だったって、よーく分かりましたから!」
「違うよ、あれは……」
「アタシしばらく家には帰りませんから!」
涙目で中年男の服を引っ張り、肩にグーパンチを連打している中年女と、それに平謝りしている弱々しい中年男が、閉店した居酒屋から出て来た。
「まぁまぁ涼子ちゃん、そう言わんと……」
と、黒Tシャツに前掛けをした、でぷっ腹の店主と思しき中年男も、女の手を制するように、続いて来た。
ほう、これは面白そうな予感。
タバコをつーと吐きながら、程よい距離でこっそり観察する。
「涼子ちゃん、こいつも悪気はないんだよ。だって、ヒナちゃんみたいなあんなに可愛くて色っぽい子……あ、いや」
「は!? 何なのよそれ! ヒナちゃんって……やっぱり楽しんでたんじゃない!」
「違う、ごめん、あ、あのえっと、悪い達也、口が滑っ……」
「もういいわよ! しばらくアンタの顔は見たくありません!」
ほーう。あーあ、奥さん帰っちゃった。
無言で肩を落とす男二人。一息置いて、店主は毛むくじゃらの腕でヨワヨワ男の肩をタンタンと叩き、「まぁ、落ち着いたらゆっくり話し合えよ」とぽつりと助言して、俯いたまま店の中へ戻って行った。ヨワヨワ男が、途方に暮れてとぼとぼとこちらへ歩いて来た。ふむ。なるほど。……よしっと。
「お兄さんお兄さん、まぁそう気を落とさずに」
タバコを仕舞って、達也と呼ばれたヨワヨワ男の肩に手を回した。
「へ? あ、はは……」
何だこの人、の顔。他人のその顔は見慣れてる。
「敵は案外、味方の中に潜んでるものです」
「はぃ……?」
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