プロローグ 初恋というなの爆弾

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 初めは興味なかったが、やたら目立つ人だったのでよく視界に入った。  一目見ただけでモテる理由は明らかだった。  やたら背が高い。  学年一の高身長で、顔立ちがくっきりしていて俺と同じでハーフなのかなって疑いたくなる彫りの深さだった。  顔自体はよく覚えてない。  悪い顔でも無かったけれど、女子も顔で騒いではいなかったと思う。  背が高くて包容力がありそうに見える。  それだけでかっこよく見えるものだと女子が言っていた。  だが俺の場合、目を惹かれたのは身長だったが足を止めて見惚れてしまった理由は他にあった。  手がやたら綺麗だった。  格別際立った造形はしていないけれど、大分出来上がった男の手なのに肌が綺麗で触り心地が良さそうに見えた。  握ったら弾力があって気持ちよさそうだなって。  けれど、一番は爪だった。  小学生の爪なんて伸ばしっぱなしになってたり、深く切りすぎだったり、爪に黒いごみが溜まっていたりするものだけど先輩の爪はいつも小綺麗に整えられていた。  見ているだけで時間を忘れられた。  遠くから見ているだけで良かったのに俺はつい先輩が一人になった時、後をつけてしまった。  ちょうど体育の時間で着替えたばかり、運動場に出るのが億劫だってのもある。  授業でベタベタからかい半分に同級生に身体を触られるんだと思うと、授業に行くよりあの手を見ていた方が有意義だと思ったんだ。  先輩の足は屋上に向かっていた。  手には図書館で借りたらしい本を抱えて、立入禁止の屋上に消えた先輩をおいかけて俺も屋上への扉をくぐったんだ。  先輩は、扉から少し離れたところで壁に背を預けて本を読んでいた。  この日もやっぱり先輩の指は綺麗で、俺は先輩が本を読み終わるまでずっと見続けていたんだと思う。  授業が終わるチャイムが鳴っても先輩は顔を上げなかった。  先輩が顔を上げたのは本を一冊読み終えた直後だった。  本から顔を上げた先輩が、なにかに気が付いたかのように目線を横に滑らせる。  俺はその時になって自分が随分気味の悪い事をしていた事に気がついた。  なにせチャイムが鳴るまで一時間ずっと先輩の手を見続けていたんだから。 「いたのか」  その言葉に俺はほっとした。  気づいていなかったらしい。 「もしかしてこの本気になるのか?」  くすりと笑った先輩の言葉に俺は勢いよくこくこくと頷いた。  手に見惚れていたなんて言える訳がない。
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