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世間のユカリ様騒ぎは一年ほどで沈静化した。にわかファンは煽りに弱い。次々と繰り出される新しいアイドルやイケメンアスリートやらに目移りしていった。
チケットも取れないということはなくなった。でも、雛と撫子は連れ立って観劇するのが習慣になった。そして、他の熱いファンとの交流も増え、その人たちの懐の深さに触れた。
「ユカリ様の魅力を多くの人に知ってほしい」
にわかでも初心者でも誰にでも。惜しげもなくユカリ様の素晴らしさを讃え、勧め、説く。ユカリ様がもうあんなことで悲しまないようマナーを違えない。そういざなう。
そういった態度こそユカリ様にふさわしい。雛も撫子も、にわかファンを敵視していた我が身を恥じた。そして2人もまたそうした「布教」をする。まるで伝道師のように。
「雛、アクセサリーの新作できた?」
「もちろん。みんなお揃いで行きましょう。人数分作ったから」
雛は大きな袋を掲げた。
最近、ユカリ様のイメージカラーが橙から紫に変わった。雛たちの意を汲んでくれたのか、ご本人が気に入ってくれたのか。
確かなのは、2人だけの共通点が、もはや2人だけのものではなくなったことである。
(完)
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