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初日のために用意した、紫のグラデーションのワンピース。同じ色味のアクセサリー。なんてユカリ様のイメージにそぐう装い。雛は鏡の前でくるりと回り、満足した。
どれも藤の花をモチーフにした雛の手作りだ。けれど藤という花の、束になったしだれ感は難しく、イヤリングもネックレスも、良いとこ「もしかして葡萄?」と聞かれるレベル。まあ一目で藤とわかる人はそういまい。それでも出来は悪くない。
藤は、雛が初めて見かけたときからのユカリ様のイメージなのだ。だからユカリ様の公演観劇ではいつもそれらを身に着け紫ずくめ。1人浮いていた。
わかっている。ユカリ様の公式カラーは橙。目を奪われる華やかな眩しいオーラは、なるほど神々しい橙で間違いはない。
けれど、雛にとっては紫の高貴さがユカリ様にピッタリくるのだ。そのイメージで自分をプロデュースしたくて手芸好きの虫が復活した。
会社の給料は、ユカリ様の観劇チケット代とグッズ購入費、ツアー追っかけのための交通費宿泊費で消えていった。補填しようと、他にもアクセサリーを作ってネット販売してみた。まあそう甘いものじゃなく、大して売れない。汲々の生活。
でも。ユカリ様の公演スケジュールチェック、チケット入手、それに合わせた休暇の申請、役柄に合わせた観劇用の衣装とアクセサリーの製作。合間に副業。
そんな繰り返しの日々は、ささやかな幸福感に満たされていたのに。
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