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「ネットであなたのネックレスを見つけたとき、『これこそユカリ様のイメージ』ってビビッと来て。やっぱりあたしのカンは正しかったのね!」
撫子もユカリ様の崇拝者だった……。それも、公式カラーの橙ではなく紫をイメージする感覚まで、なぜか同じだった。
「あたしがハマったのは男装の麗人のお役を見てから。ユカリ様の凛とした中性的なお姿に、超ときめいちゃって」
「でも悲劇の女王なんかも鮮やかに演じきる。その底なしの演技力に目が離せないわ」
「高音から低音まで、音域3オクターブもあるのよ。お歌に聴き惚れてしまうけど、あのダイナミックなダンスも見逃せない」
撫子のグロスでビカビカした唇は、怒濤のごとく早口が止まらない。嬉しげに得意げに、いかにユカリ様を尊んでいるかを語りまくる。
こんな品のない女が、何でそう自慢げに、自分の手柄みたいにひけらかしてるの?
でも早口過ぎて口を挟めない。心の中で突っ込むしかなく、雛は苛々が募っていく。
「見た瞬間に稲妻が走ったの。ユカリ様を見つめ続けるために、あたし生まれてきたって思えて!」
自分が見つけ出したみたいな言い方。
雛の方がずっと先にユカリ様に目を惹かれ、長いこと応援してきたという自負がある。その思いの丈が目一杯込もったワンピースを――
「あたしも四苦八苦して作ったの。ユカリ様の高貴な雰囲気にぴったりだもの」
裾のかがり方が稚拙。胸元のギャザーも雑。どうやって同じ布を手に入れたのか、雛が濃淡きれいなグラデーションになるよう丁寧に縫い上げたのと比べ、撫子のは適当でパッチワークみたい。でも、2人並ぶと類友にしか見えない。
さすがに脱げとも言えないが、雛の方が着替えるのも悔しい。あの日、浮かれて出来立てのワンピースを着てボックスショップへ出向いたことを激しく後悔した。
せめてもう一言も口をきくまいと、正面を見据えた。その意をくみ取ることができないらしく、撫子の一人語りは、幕が上がるまで一秒たりとも途切れなかった。
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