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またボックスショップに現れた撫子を見るやいなや、雛は商品を全て片付けた。
「これ全部売約済みなので」
そそくさと引き上げようとする雛の背中を、撫子のしゃがれ声が追いかける。
「じゃあさじゃあさ、次に作るのを予約しちゃう!」
その言葉尻に滲む近すぎる距離感。同志とでも思われているのだろうか。
こんなとき敬語は便利だ。お互いの距離を天と地ほども引き離せるツールになる。
「あの紫のアクセサリーは、私の思うユカリ様の透明感と存在感ときらめき、そんなイメージの全てを詰め込んで作ったものです」
「わかるわよ、だから」
「私の! 私独自のイメージです! あなたのじゃない。泥棒猫みたいに上辺だけ真似てくれちゃって。下品だとは思わないんですか?」
撫子が息をのんだ。ようやく雛の不快さを感じ取ったらしい。鈍感すぎる人間にはハッキリ言ってやる他ない。
「言っておくけど、私の方がずっとユカリ様のこと好きだから。長年誰より憧れてきたんで。あなた随分我が物顔ですよね。つい最近ユカリ様を知ったばかりのくせに」
撫子が黙り込んで俯いたので、やった、凹ませた、と勝利感が沸いた。が、顔を上げた彼女は、にんまりと笑った。そして。
「じゃあ、どれだけユカリ様のグッズ持ってるの? 一緒に写真を撮ってもらったことは? 舞台を観た後何日幸せでいられる? あなた絶対あたしに勝てないと思うけど」
そうして告げられた、撫子のつぎ込んだとんでもない金額。今度は雛がおし黙る番だった。
が、負けてなるものか。
「歴はせいぜい1年よね? ちゃんちゃらおかしい。私なんか10年以上追っかけてる。初舞台のロケットでは右から3番目、一瞬つまずいて転けそうになったことも知ってる。その後少しずついい役がついてきた成長もずっと見てきた。あなた知らないんでしょ、そういう苦労時代のこと」
今度は撫子の方が悔しそうに顔を歪めた。そのまますごすご帰っていったので、少しだけ気が晴れた。
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