藤より出でて

5/12
前へ
/12ページ
次へ
またボックスショップに現れた撫子を見るやいなや、雛は商品を全て片付けた。 「これ全部売約済みなので」 そそくさと引き上げようとする雛の背中を、撫子のしゃがれ声が追いかける。 「じゃあさじゃあさ、次に作るのを予約しちゃう!」 その言葉尻に滲む近すぎる距離感。同志とでも思われているのだろうか。 こんなとき敬語は便利だ。お互いの距離を天と地ほども引き離せるツールになる。 「あの紫のアクセサリーは、私の思うユカリ様の透明感と存在感ときらめき、そんなイメージの全てを詰め込んで作ったものです」 「わかるわよ、だから」 「私の! 私独自のイメージです! あなたのじゃない。泥棒猫みたいに上辺だけ真似てくれちゃって。下品だとは思わないんですか?」 撫子が息をのんだ。ようやく雛の不快さを感じ取ったらしい。鈍感すぎる人間にはハッキリ言ってやる他ない。 「言っておくけど、私の方がずっとユカリ様のこと好きだから。長年誰より憧れてきたんで。あなた随分我が物顔ですよね。つい最近ユカリ様を知ったばかりのくせに」 撫子が黙り込んで俯いたので、やった、凹ませた、と勝利感が沸いた。が、顔を上げた彼女は、にんまりと笑った。そして。 「じゃあ、どれだけユカリ様のグッズ持ってるの? 一緒に写真を撮ってもらったことは? 舞台を観た後何日幸せでいられる? あなた絶対あたしに勝てないと思うけど」 そうして告げられた、撫子のつぎ込んだとんでもない金額。今度は雛がおし黙る番だった。 が、負けてなるものか。 「歴はせいぜい1年よね? ちゃんちゃらおかしい。私なんか10年以上追っかけてる。初舞台のロケットでは右から3番目、一瞬つまずいて転けそうになったことも知ってる。その後少しずついい役がついてきた成長もずっと見てきた。あなた知らないんでしょ、そういう苦労時代のこと」 今度は撫子の方が悔しそうに顔を歪めた。そのまますごすご帰っていったので、少しだけ気が晴れた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加