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が、以来、必ず公演で顔を合わせる。雛はもう口もききたくないが、いい席を取れた時ほど、すぐ近くに撫子がいる。しかも全身雛と同じく紫ずくめで。
ユカリ様のファンは橙一色だ。なのに「ユカリ様♡」のうちわを掲げながら雛と撫子だけが紫。だから目立つ。
舞台からユカリ様の目にも留まったらしく、雛と撫子方面に手を振って、ウインクを投げてくれた。
「あたしに! あたしにウインクしてくれた!」
「何言ってんのよ。私でしょうが!」
本来なら失神しそうな興奮のはずが、撫子のはしゃぎぶりに冷まされて、幸福感は半減。
何で? どうして撫子は橙を身に着けないのだ。ユカリ様に紫をイメージするのは雛だけのセンスなはずなのに。
そして、出待ちまで必ず一緒。
「ああらまさか観てないの? 超イキッてるのが可愛かったユカリ様の不良学生役」
「知らないでしょうけど、初期の頃に早変わり失敗したレアな瞬間も、私観てるのよね」
「修学旅行で浅草寺に来たときにスカウトされたことは常識よね」
「それ以前に、地元のフリー誌の表紙モデルとかやってらしたし」
毎度そんな知ったかぶりの言い合いになるので、最近は周りから「だよね」「それ大事!」などと合いの手が入ったりする。そんなことがしたいんじゃないのに。
舞台の余韻に浸りたい時間が、不毛で無駄なやり合いに取って代わられて、雛は苛立ちを覚えていた。
それでもユカリ様のお帰りに立ち会うからには、きちっと整列を乱さず、余計な感情を鎮め、ファン一同清い気持ちでお見送りするマナーを違えることはなかった。雛も撫子も。
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