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「ねえ知ってる? ユカリ様、今度地上波の旅番組に出演されるんですって!」
雛が先に言おうと思ったのに、その日は先手を取られた。得意顔になる撫子に、負けじと雛も言う。
「当然よ。私もうとっくに録画予約済みよ」
「へえ随分優秀な機器を持ってるのね。うちは1週間前にならないと予約できないから、スマホでリマインダーかけてるんだけど」
そうだ……うちもだった。と雛が思い出したのを見透かしたような上から目線になる撫子。
本当にムカつく女だった。
何でこんなに疲れなくちゃならないのか。大好きなユカリ様のお芝居を観に来ると、必ずこいつがいる。偉そうに物知り気に。
宝箱に収めてある雛だけの大切なものを、泥まみれの手で無造作に荒らされる気分だった。
そうして、ユカリ様の番組が放送された。次のお芝居の舞台となった土地を歩くという形式の、宣伝。
それが、すごい反響だった。
つややかなショートカットの、目力が半端ない、中性的で立ち姿が凛々しい、とんでもなく足の長いあの人は誰? と。
ネット検索やトレンドワードの上位をユカリ様が独占し、行きたい観光地としてその地が1位に躍り出て、その番組でユカリ様の着ていたブランド服が売り切れた。その話題性を情報番組がこぞって特集し、更に人気が白熱化した。
テレビに出ない舞台女優なのでこれまでの認知度が低すぎたのだ。
その結果。
雛はその公演のチケットを手に入れることができなかった。あまりの人数が殺到したためネットがパンク、サイトに再度ログインできたときにはもう全席完売だったのだ。
撫子はゲットできたのだろうか?
雛は全ての日程に×のついたネット画面を前にしたとき、ショックより先にそれを思った。あいつならどうにか入手したのでは? 1枚くらい余っているかも。それを譲ってもらうとか――いやいやいや! 絶対にそれだけはしたくない!
ため息をつく。落胆を鎮めようと深呼吸してみる。が、どうしても、雛のいない客席に撫子がいて、ユカリ様に見とれている様が思い浮かぶ。はらわたが煮えくり返りそうだった。
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