運命を感じると言えば

1/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

運命を感じると言えば

テレビから聞き覚えのある声が流れてくる。 『アタシたち前世からのカップルなんですぅ。生まれ変わってもまた会おうねって約束しててぇ』 『ほら、このホクロが目印なんですぅ』 近頃、よく目にするようになった2人組のタレントだ。 SNSや動画サイトが主な活動拠点の、若者世代に人気のカップルで、少しスピリチュアル寄りの不思議ちゃんキャラをウリにしている。 たまに的を射るというか、お茶の間をハッとさせるようなことを言うので、最近は年配の世代にもウケがいいらしい。令和のカリスマとは、こんな感じなのかも知れない。 「へぇー! こんな事、実際にあるのかなー」 テレビを観ているマキが言った。せんべいの残り1枚を食べながら、テーブルに頬杖をついて。 もう何年も着ている部屋着はヨレヨレで、毛玉ができている。これだけ長い付き合いともなると、ずっとキレイなままで、ブリッ子してもいられないと言う。 一緒に暮らしているし、家族みたいなものだから、むしろ安心している証拠だろう。 「それ、生まれ変わる前も言ってたよ」 向かいに座った僕は、原稿を書きながら返す。 「あっ、そうなんだ。わたし、忘れっぽいからなー」 「うん。それも言ってた」 そう言うと、返事が途切れた。 目を上げると、マキは少ししょんぼりした顔で僕を見ている。 「なんか成長してないって言われてるみたい」 「そのままのマキでいても問題ないってことじゃない?」 そう答えると、ぱっと表情が明るくなる。 「そっかー。アンタが憶えててくれるもんね」 マキにはやっぱり、笑っている顔の方が似合う。と言うか、僕はその方が見慣れている。 「まあ確かに……片方が憶えてたら大丈夫だよね」 短く返事をして、作業に戻った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!