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教室には興味深々の勝沼が待っていた。
「どうだった?ラブレターは」
俺はチラリと席に着いている安村さんを見る。
その背中からは何もわからない。
たとえば嫉妬しているだとか、無関心だとかも。
「まあね、月並みな感じ」
「で、内容は?」
「うん、普通。好きです、みたいな」
「どうすんだよ、君島」
「えーっ、だって俺は好きな人いるし」
そう言うと、勝沼が勝手に安村さんに声を掛けた。
「おーい、安村ちゃん、お前の彼氏浮気してんぞ。いいんか?」
安村さんの反応が知りたかったけれど、なぜだか彼女は振り向きもせず返事も返さなかった。
「やめろ、からかうな」
「安村ちゃん」
勝沼が安村さんの肩を叩いた。
「やめろ、触んな!」
俺は勝沼をどついていた。
俺だって触っていないのに、勝手に彼女に触るな。
それでも安村さんは無反応だった。
「で、お前はあの子と付き合うの?」
切り替えの早い勝沼は俺に尋ねて来る。
「付き合わねぇよ、だって知らない2年だぜ」
「だってお前もう学校決まってるし、入試ないから女の子と遊んでられるじゃん」
「俺はそういうの嫌なの、遊ぶとか」
「へー、俺だったら絶対付き合っちゃうな、とりあえず」
「俺は安村さんが好きだから」
もうこれは、思い切り本人に聞こえるように言ってやった。
「ヒュ〜ゥ、出ました、君島のラブコール」
勝沼はまた安村さんの方を向いて「君島がお前の事好きだってよ」とからかい出した。
すると、安村さんは振り向いて「うるさい!」と言って勝沼の肩を押し返した。
彼女は明らかにイライラしている。
確かに勝沼は人を不快にさせる天才だけれども、でもそれだけではない事を願う。
1ミリでもいいから、嫉妬して欲しい。
俺はこれまでも散々兄の事で嫉妬して来た。
少しでもその気分がどんなものかを知ってもらいたい。
まるで心の狭い状態になって、自己嫌悪を味わう事になれば俺の辛さもわかるだろう。
俺はそのせいで、少し病んでいる。
尊敬する兄を恨みもした。
貰ったピンクの封筒をグチャグチャと握り潰して、ズボンのポケットに放り込んでいる。
女はいらない。
安村さんさえいればいい。
俺はこの頃にはすっかり毒されていて、すぐに男に騙される同年代の女子に嫌気が差していた。
安村さんは違う。
兄の本当の優しさに気が付いていて、見た目の麗しさに惹かれているだけじゃなかった。
俺自身も安村さんが好きだが、彼女の見た目だけを気に入っている訳じゃない。
俺はもっと病んでいて、彼女がたとえ男であっても構わなかった。
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