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彼女を見ていると、まるで自分を見ているようだった。
相手に誰か好きな人がいたとしても、好きだと言って追い掛けて来る。
もしかしたら安村さんにも、こんな怖い思いをさせているのか?
「おい君」
「はい」
「結構可愛い顔してるよな」
「えっ」
「俺と付き合ったとして、俺にはどんなメリットがあるのか教えてくれ」
「メリット?」
「自分をプレゼンするなら、相手にそのベネフィットを教えてやるべきだろう」
彼女は不思議そうな顔をしていたが、意を決して答えた。
「私といると、寂しくありません」
「ふん」
「あ、それとボッチって言われないと思います」
「それ、メリット?」
「はい、ボッチと言われて殺人事件起きてましたから。しかも孤独感は、人間の寿命を縮めます。誰か側にいるだけでも、人間は幸せになれるんです」
「へぇ…」
彼女と話しながら歩いていると、その後ろから安村さんが教室に向かっているのが見えた。
教室はもう近い。
いつまでも付いて来る後輩が邪魔になって来た。
「もう自分の教室行けよ」
「はい、ではまた」
「また?」
また来るつもりらしい。
チラリとこちらを見た安村さんの横を後輩が通り過ぎて行った。
その顔色を見ても何もわからない。
彼女の中に嫉妬とかいう文字は無いのかもしれない。
それとも、俺の事は本当にどうでもいいのだろうか。
安村さんが俺を見てニコリと笑った。
「おはよう」
「おう」
やけに愛想がいい。
もしかしたら、これは逆に平静を装った感情隠しなのか?
俺の事が気になって来たのか?!
都合良く考えていると、その自己肯定感の強さに自分で驚く。
超前向きな精神がまるで、あの小さな後輩にそっくりだ。
尊くも鬱陶しい、あの後輩女子に。
「安村さん、もうすぐ兄貴の実習終わるよ」
「そう」
「そしたらさ結婚する兄貴の事なんか…」
「ん?」
「俺が忘れさせてやるよ」
ギクリとした表情をして、安村さんが固まった。
「何?ビビってんの」
「いや、今なんか服を脱がされたみたいに思えた」
何それ?
鼻先で笑ってしまった。
こうして追われる者は追う者を恐れて暮らしている。
それをあの後輩が教えてくれた。
全力で逃げ出したくなる気持ちにさせる。
だけど、俺はなんとなくだが女はそうやって男に追われる事を望んでいる生き物なのではないかと思っている。
側に誰かいるだけで、人は幸せになれる。
孤独感は寿命を縮める。
だったら、ずっと彼女の側に寄り添おう。
子供の頃からそうして来たように。
ずっと君の側に。
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