やっぱり彼女が好き、だから…

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会場でチケットを買う列に並んでいると、圧倒的にカップルが多かった。 そこに同じようにして並んでいると、自分だけが浮いている。 「君のファッションは正解だった。俺が浮きまくっている」 「田舎者だからしょうがないじゃない」 「その辺の店でシャツだけでも買って来ようか」 「いいよ、今更」 「君に恥をかかせた、ごめん」 それでもヤケクソになって会場に入ると、美しくデザインされた大きな水槽にさまざまな照明が焚かれ、水の反射で煌めき、そこを金魚たちが泳ぐ夢のような世界が広がっていた。 俺は水槽の前で何枚も彼女の写真を撮る。 「映えるな、君だけがこの景色に似合ってる」 「どうしたの絶賛してるね今日」 「綺麗だ、君って美人だったんだな」 「何それ」 「ブランコで靴投げしてた小学生だったのに」 「いつの話よ」 その思い出が、ほんの数日前の事のように感じる。 「ねぇ、大学出たらどうするの?」 「私の夢はキャリアを積む事」 「えっ、出世するつもり?」 「違うよ。仕事に生きる」 「え〜、そうなの?」 小さな金魚から、リュウキンの大きな金魚まで、生き物たちが芸術的に展示されているのを見ると誰がこんな事を思いついたのかと驚嘆させられる。 水と、金魚と、照明とそれらが芸術の域にまで達して人間を圧倒する造形を作り出していた。 けれど、俺は… 彼女しか見ていない。 彼女の目標は、仕事を持ちキャリアを積む事。 彼女の人生の中に俺は含まれていないのか? それならば、その為に俺は全力で彼女を推す事にする。 だけど、それはもしかしたら二人の将来にとっては何の進展もない事になるかもしれない。 それでも俺は彼女を推すと決めた。 「俺がダサいままだと、つり合わないな。なんか服選んでくれない?」 「いいよ」 俺たちはそこからなぜか孝俊改造計画を始めた。 「うわ、何だこの値段」 「男物って高いね」 「バイト代飛ぶわ」 俺たちは間違えて次々と場違いなショップに入って行った。 「東京で物買っちゃダメなんじゃない?」 「そうかも」 「てか、君島くん何でカード持ってんの?」 「Suicaのチャージに使ってるだけだよ。買い物で使った事ねぇよ」 「ちょっと、コーヒー一杯で1000円してるけど」 「身ぐるみ剥がされそうだな、早く地元帰ろう」 「そうだね」 俺はショップで値札を外してもらったシャツを着ていた。 5桁の数字が消えたが、それで少しは彼女の隣りに立っていられるようになった。 「その髪を何とかしよう」 「けどこの辺のサロン入ったら支払い能力を超えるぞ」 「仕方ない、そこは諦めて地元のサロンで手を打とう」 結局、シャツを買うと、パンツが合わなくなり、パンツを変えると靴が合わなくなり、調和が取れなくなって酷い有様になった。 「こうなると、裸の方がましだな」 「迷惑防止条例で捕まるでしょ」
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