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安村さんは真っ赤になりながら一生懸命声を出して答えていた。
「そういう訳じゃない。けど見た目は、最初の好印象を決めるとは思う。
君島くんはカッコよくなった。
でもね、私には今までのあなただって充分カッコよかったの。
君島孝俊って男は最高にカッコいいと思ってた」
「熱っ!」
俺は自分が猫舌なのを忘れて一気にコーヒーを流し込み、それを吹き出していた。
「何やってるのよ〜」
彼女が自分のハンカチを出して俺の口元を拭いている。
「こういう抜けてる所とかあるけど」
「あ、コーヒーシミついちゃうよハンカチに」
「いいんだってば」
「ほら、見た目なんていくら飾っても、すぐ正体バレる。ダサいだろ、俺?」
「そんな事ない、最高に可愛いわよ」
「えっ、かわ…?」
俺の昂る心は最高潮に達して、訳がわからなくなって来た。
そして彼女は笑い出した。
「君島くんて、ほんと鈍いよね。私が中学の時あなたに言った事覚えてる?」
「兄貴の事が好きだって…」
「そう言えばすぐ君島くんは過剰反応する。お兄さんと比較されるのが嫌だから」
「だって」
「人間てね、追われると逃げたくなるものなのよ。だから本当に捕まえたいと思ったら、追いかけちゃダメ。相手に追いかけさせなきゃ。その為にお兄さんが好きって言ったのよ私」
「え?!」
「実際、君島くんは執着してくれたじゃない」
「何だよそれ」
「私をもっともっと、好きになって欲しかった」
「凄い好きだよ、好き過ぎて頭おかしくなりそうだったよ」
「教育実習の時もお兄さんをまだ好きなフリをして…」
俺は全く想像もしていなかった事を言われて面食らった。
「なんなんだよ、普通に好きって俺に言えば良かったじゃん」
「そんなんじゃ、ダメよ。単に好きなんて言ったって。ちょっとのぼせるだけで終わっちゃう」
「訳わかんねー」
焦ってソファからずり落ちそうになった。
ダメだ、興奮し過ぎて体の制御が効かない。
手が震え出していた。
「今まであなたにたかる女をどれだけ排除してきたと思ってるの?女同士の熾烈な戦いをして来たのよ」
「何言ってんの、俺は全然モテないよ」
「だってあなたに近寄る前に全部叩き潰して来たから。だけどあの子は強敵だったわね、あの高校の時のメガネちゃん」
「彼女に何したんだ?」
「君島くんに近寄るなって、散々脅してやったわよ。あの子に反撃くらって結構痛い目にあったなぁ。でも彼女あれ以来現れなくなったでしょ?」
「おっそろしい女だな」
「だから大学を出るまでは、あなたにこれ以上モテて欲しくなかったのよ。少々ダサいままでいてもらう事にした。でももうすぐ卒業だし、そろそろ仕上げに入ろうかなって」
「仕上げって?」
「改造計画」
「はぁ?!それも俺を焚き付けてやらせたって事か?!」
「成り行きだけどね」
「何だよ〜、今まで何だったんだよ。もの凄い禁欲生活してきたってのに」
「そこは君島くんの一番いいところ。女をいいなりにしない人。お兄さんとは違う。だから好きなの」
『だから好き』という言葉にめまいがした。
「結局、何?君は俺の事ずっと好きだったって事?」
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