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「私はもうずっとあなたの事が好きだったよ」
ヤバイ…
彼女が脚を組み直した。
テーブルの下で美しい脚を組み直すのを見たくて、バカな俺はそれを覗き込みたくなる。
そしてもう自分の気持ちに蓋をする事ができなくなっていた。
「俺の事、そんなに好きだったんなら早く彼氏に昇格してくれよ」
「イヤよ」
「なんで?!」
この期に及んで、どうして俺を拒んでいるのかわからない。
俺の気持ちは昂っていて、もう抑える事ができなくなっているのに。
「あなたは、彼氏にしない。どうしてもって言うなら、結婚して」
「えっ?だって仕事に生きるって、夢はキャリアを積む事だって言ってたじゃないか」
「結婚なんてワード出したら、男って一目散に逃げる生き物でしょ。どう?逃げ出したくなったでしょ。人間の恋愛は高度な心理戦なのよ」
「はーっ?」
「このタイミングで体を許せば、必ず男は後で逃げるからね。彼氏になってどこかへ連れ込もうなんて考えは起こさない事よ」
なんつー女だ!?
そんな事を言語化するな。
だけど、彼女はそれだけ俺を逃したくはない、という事なのか?
俺は彼女に夢中だ。
彼女が好きでたまらない。
何でかって聞かれると答え辛い。
彼女は策士で、恐ろしい女で、キュートで美人で、それでいて気遣いのできるいい女だ。
でも本当の所、俺は彼女の靴を拾わなかった事をいつまでもクヨクヨと後悔していて、どうしようもない。
だから、彼女に執着して来た。
俺は彼女が好き。
好き過ぎて気が狂いそう。
彼女は俺をどうするつもりだろう。
手玉に取り、コロコロと手のひらの上で転がしながら、いたぶるのが大好きみたいだ。
女は恐ろしい。
俺はいいように操られて来た。
やっぱり、いい女には棘があるんだ。
だけどそこはやっぱり女の子、策士としては男には敵わない。
このタイミングでネタバレさせるなんて。
肝心な事は言わないでおくものだろ。
「安村さん、こんな所で何してるの?」
「しいっ、静かにして。お兄さん待ってるの」
「何でぇ?」
「クッキーあげるから」
「あ〜、でも兄貴女の子によく貰うけど一つも食べてないよ」
「えっ?そうなの」
「甘い物嫌いなんだってさ」
「せっかく作ったのに〜」
「だったら俺が貰ってやるよ」
「何で弟にあげなきゃなんないのさ」
「だって俺、安村さんの事好きだよ。兄貴なんかよりずっと好きだよ」
「じゃ、義理であげる」
「わーい」
「義理って意味わかってるの?」
「義理って…人情みたいな?」
「わかってないのね。恋愛感情無しって事」
「でも俺、それでも安村さんの事だーい好き!」
「ばっかじゃないの」
小学生のあの時、俺は君の告白を阻止しておいて良かった。
甘い物好きの兄貴に、安村さんのクッキーを食べさせる訳にはいかない。
万が一両想いにでもなられたら、たまんないもんな。
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