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笑いながらも、彼女は真剣な眼差しで、俺に釘を刺した。
「新婚の間くらいは、二重顎は許さないからね」
「何で〜、人間見た目じゃないよね。俺だって老化するから。でも俺と兄貴は五つ年離れてるから、まだ大丈夫だよ。腹筋割れてるし」
「えっ、腹筋割れてるの…?」
「兄貴はタヌキ腹になってるけど」
「いや〜っ、タヌキ腹とかって勘弁してぇ」
「兄貴は無類の甘いもの好きだからなぁ」
その時、俺は墓穴を掘ってしまった。
その痛恨のミスを彼女は見逃さない。
「ちょっと待って、お兄さん甘いもの苦手じゃなかったっけ?」
「いや…?あれ?どうだったかな」
「お兄さんが甘いもの苦手だからクッキーは食べないって言ってなかったっけ?小学生の時。だから私が持って行ったクッキー孝俊にあげたんだったよね?」
「え?何、そんな事あったっけ?覚えてないなぁ」
彼女は俺に詰め寄る。
「孝俊、まさか?!」
「えっ?」
「私のクッキー強奪犯だったの?」
「あれっ、何の事」
「コラーッ!」
「ごめんなさ〜い!!」
俺たちは無事に入籍を済ませる事になった。
仕事も軌道に乗って順調だし、二人で働きながら暮らしている。
俺たちは小学生の頃からずっと互いを知っていた。
だからお互いの短所も弱点もわかっている。
彼女が棘のある女で、兄の事が好きだった事もわかっている。
それでも、俺は彼女が好きだ。
やっぱり好きだ。
彼女がおばちゃんになっても、おばあちゃんになっても変わらない。
やっぱり好きだ。
そして俺はしっかりと彼女の尻に敷かれて今も暮らしている。
彼女は俺の背中に跨り、手綱を引いているけれど、俺はそれでも構わない。
時々刺さる彼女の棘には毒があって、瀕死の重傷になる事もある。
だけど、俺は。
やっぱり彼女が俺の推しであり続ける事を願っている。
いじわるな君も、おっかない君も、やっぱり好き。
君が好きなんだよ!
完
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