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好きだと言い出したものの、それをどうしていいのかもわからない。
俺と彼女はお互いに困惑しながら見つめ合った。
彼女の美しい唇が囁くように言う。
「私、あなたのお兄さんの事が好きなの」
たぶんそうだとは思っていた。
大抵の女の子はそうなのだから。
比較対象にもならない特徴のない俺は、女の子を大切に思うから手も出さない。
だから特に目立った悪評も立たない代わりに、華々しいモテ伝説も残していない。
狐目といわれる細い吊り目は、冷たい印象があるようで他人に無関心な性格は女の子を遠ざける。
勉強もスポーツも何もかも特別ではない。
人に対する無関心は親切や優しさとは無縁。
そんな男がモテるはずもない。
嫌われる事もなかったが、好かれる事もなかった。
そういう空気の様な存在だ。
その君島の弟が告白して来たからといって、彼女にとってはどうでもいい事だったのだろう。
当たり前のように「お兄さんの事が好き」と言われてしまった。
降りしきる雪景色も、爆ぜる暖炉の松明も何も味方はしてくれなかった。
こんなにロマンティックなシュチュエーションですら気分を盛り上げてくれないのだから、自分にはよほど男としての魅力はないのだろう。
そう思えた。
打ちのめされた俺の修学旅行が、どれほど辛いものになったかは筆舌に尽くしがたい。
そのまま進学した俺は、やはりまた偶然に彼女と同じ高校に入って念願の同じクラスになった。高校3年の時だった。
もうすぐ年は18になる。
それで世間は自分を大人と認めるようになる。
けれど、それが俺と彼女を結ぶものとはならない。
俺は中学の修学旅行以来撃沈したくせに、彼女を諦め切れずにずっとその気持ちを抱えたまま生きてきた。
兄の事を恋する女の子を求め続けた。
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