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横槍
小中高と同じ学校だった事もあり、なんとかその関わりを断つ事のなかった俺と彼女だったが、それも高校で終わりそうだった。
彼女の志望校がカガミ女子大学だと知る。
いくらなんでも、そこまでは追いかけられない。
彼女が他の女子と話しているのを聞いた。
「叶ちゃん、大学どうすんの?」
「うん、カガミ」
「カガミって女子大じゃん!?いいの?」
「いいの、って何が?」
「彼氏できなくない?」
「そうだね」
なぜそんな所に行くんだ。
それは近所にあって、バス通学が可能なエリアだ。
推薦入学で面接だけで入学できる事があるのかもしれないが、せめて共学にして欲しかった。
環境が違えば、もう彼女と関わる事もなくなるかもしれない。
俺は袖口のボタンを握り締めた。
彼女との繋がりはこのボタンだけ、それも卒業すればこの制服を着る事はもうない。
俺がもし、彼女が飛ばした靴を拾っていたら、それを届けたのが兄ではなく俺だったのなら、好きになってもらえたのは俺の方だったかもしれない。
だけどそれを拾ったのは兄の清政だった。
シンデレラだって、靴を落として行ったけれどそれを拾い上げた王子と結ばれているんだ。
俺はなぜあの時何事にも無関心で、あの靴を拾わなかったのだろう。
あそこで拾っていたのなら、俺はとっくにあの暖炉の前で彼女と両想いになっていたかもしれないのに。
兄の教育実習はあと数日残っていた。
「はい、じゃあこの段落読んでくれる人いないかな?」
女子の手が何本か挙がった。
その中から兄は安村さんを選んだ。
もしかしたら、俺の為だったのかもしれない。
彼女が立ち上がって段落を読み始めた。
彼女の英語の発音は見事なもので、それを兄はベタ褒めした。
「凄いじゃないか、安村さん。留学でもした事あるの?」
「いえ、英語は公文で覚えただけです」
「それでこんな滑らかな発音なんだねぇ、いや参ったな。君は将来英語で食べていけるよ」
兄に褒められた彼女は真っ赤に染まった。
俺はそれを眺めながら、手に握っていたシャープペンがバキンと割れて真っ二つになって驚いた。
なぜ彼女の心を惑わすんだ、そんな怒りがこみ上げて来ていた。
兄がモテるのは顔の美しさだけではない。
その顔でリップサービスをする。
女性に対する賛美は惜しみなく蒔く。
だからそれを勘違いする相手はますます兄の虜になる。
キラースマイルで褒められた人間は、悪い気はしない。
俺の好きな彼女にそんな事をした。
兄でなければ、ひと気の無い場所で潰してやりたいくらいだ。
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