9人が本棚に入れています
本棚に追加
昼休み、弁当を食べ終わると誰か俺の名を呼ぶ人がいた。
「なんか君島の事呼んでる人いるぞ」
そう言われて見ると、知らない小さな女子生徒が赤くなって自分を見上げていた。
「何?」
「あの、これ」
差し出されたのは一通の手紙。
それはピンクの封筒に入った手紙で、可愛らしい丸文字で『君島さんへ』と書いてある。
「読んでください」
「悪いけど、俺返事とか書かないからね」
「はい」
そう言って彼女は立ち去って行った。
受け取った手紙を掴んだまま、少し呆然とする。
何これ、まるで兄貴になったみたいだ。
知らない女の子からピンクの封筒をもらうなんて。
早速、勝沼が俺をからかいに来た。
「おいおい、ラブレターもらったんじゃないのか?」
「いや、これもしかしたら兄貴宛かもしんねーぞ」
「そうかもな、早く開けてみろよ」
「まぁ、こういうモンは一人でこっそり読むもんだ」
「へへっ、何カッコ付けてんだか」
「じゃあな」
そう言って俺はひと気の無い場所に向かった。
それは屋上に続く階段で、そこまで上って行くと大抵は誰もいない。
ひんやりとしたその階段の先に屋上へ出るドアがあって、そこで俺は封筒を開いた。
『君島さんへ
私は2年3組の高梨恭子です。
あなたを初めて見た時から、あなたの事が忘れられなくなりました。
もうすぐ先輩は卒業してしまいます。
それを考えたらとても辛いのです。
受験もあって、きっと忙しいと思うのですが
どうか私と一緒にいてください。
ただ一緒にいられるだけでいいのです。
先輩は私の推しです。
あなたの事が大好きです。
恭子』
ああ、推し?
何だそりゃ。
推し活でもしてるのか?
俺には何の感動もなかった。
女の子にモテて嬉しいだとか、自信に繋がったとかもない。
無関心な相手にどうでもいい関心を持たれて、面倒な気持ちになっただけだった。
兄はいつもこうして無関心な相手から好意を持たれて来たはずだった。
それに一々応えて行って、悪名高きモテ男になった訳だけれど、だからといってそれは何の幸福感にも繋がらない事を知った。
もしもこれが安村さんからの手紙だったら、それは興奮して眠れなくなるかもしれないが、そうではない。
どうでもいい相手からのどうでもいい好意。
それは、単なるストレスの元だった。
最初のコメントを投稿しよう!