初恋

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初恋

俺には腹違いの兄がいた。 彼は父の先妻の子で、その出産の時に母親を亡くしている。 とても美しい女性の子で、兄はその母に似て美しい顔をしていた。 それだけではない、彼にはスポーツの才もあって、何をやらせても上手くいく。 だから、小学生の時に同じサッカーチームに所属していたけれど、常に彼はエースで俺はそれを追いかける小判鮫みたいだった。 俺は兄の事が好きだ。 憧れの人でもある。 でも同時に絶対に越えられない壁でもあり、本当は憎たらしいと思っていたのかもしれない。 俺と兄はチームの練習の時に小学校のグラウンドで、トラックの走り込みをしていた。 その時校庭のブランコには二人の女の子がいて、どういう訳だかブランコに乗ったまま靴投げをして遊んでいる。 ブランコが前に出た時に足を振って靴を飛ばしていたのだ。 その靴が走り込みをしていたトラックにまで飛んで来た。 丁度チームが走っている所へ靴が飛んで来て、俺達の足元に彼女の靴が落ちて来た。 俺たちはサッカー少年の血が騒ぎ、飛び込んで来た靴をそれぞれが蹴り飛ばしながら走って行く。 俺は女の子の靴を笑いながら蹴り飛ばすチームメイトを見ながら、それをただ単に飛び越えて行った。 乾いた砂にまみれ、転がる靴を見ながら、俺はそんな物には興味もなくてやり過ごしただけだ。 けれど兄は違っていた。 チームメイトが面白がって蹴り飛ばした靴を拾い上げて、その砂を払い女の子の元へ届けに行った。 俺はそれを見た。 その靴を掴んでブランコに乗る女の子に近付いて行き、何も悪くない兄は言った。 「ごめんね」 俺は兄を尊敬している。 俺はただその靴を無視しただけなのに、兄にはその女の子の気持ちを察する事ができるのだ。 悲しい目をした女の子の泣き出しそうな顔が、和らいだ。 俺は、こういう男になりたい。
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