01.悪夢

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01.悪夢

幸せな人達が羨ましい。 大切な人と楽しそうに笑って、食事をして、デートをして、犬も食わない喧嘩が出来る。 オレがどんなに望んでも、 もう…二度と得る事の出来ないものだ。 「 ナツ〜。今日は何処行く?私は、金閣寺経由で神社巡りしてから…映画村行って…。って、聞いてる? 」 小顔でアーモンド型の大きな瞳、色白の白い肌、チークを塗る必要が無い程いつも赤みがかった頬、マスカラで軽く上げた長い睫毛、デートだからと塗って来た新しい夏色のオレンジローズのリップに艶のあるグロス。 張り切った肩出しのワンピースを着てる彼女は、誰が見ても可愛いと言えるオレの恋人。  今すぐにでも抱き締めて、キスして、それ以上の事がしたい…。 なんて、考えていた為に地図を開いてる彼女は、何か察したのかそれを口元へと当て、ほんのりと耳へと紅を乗せる。 「 もぅ…さっきから、顔見過ぎ。そんなにガン見されたら穴空きそう… 」 「 ごめんって…モモちゃんが可愛いから、ずっと見ていたくて仕方ないんだ 」 ちょっと照れた彼女に笑みを向け、内巻きにされたピンクブラウンの髪に触れては、頭部へと触れる程度の口付けを落とせば、その頬はフグのように膨らんだ。 「 もぅ、そう言ってごまかす…。ナツが京都に観光旅行来たいって言ったんだから、ちゃんと外の風景見てよ。その為に窓際なのに 」 「 んー…まぁ、そうだけど…。モモちゃんを見てる方が幸せかな。というかアレだね…今日凄く… 」 東京に住んでるけど、付き合って10年目の記念として、お互いに旅費を出し合って京都に観光へと来ていた。 京都はバスが多いから、多少迷子になる事を前提に3泊4日を計画してるんだ。 今日はその2日目。 朝にホテルで、早い時間から起きて準備してくれてるのも知ってたから、凄くそそられてつい、茶化したくなった。 「 食べたくなる…格好してるよね 」 お揃いのピアスがついた耳へと顔を寄せて囁やけば、彼女は目を見開き更に真っ赤な顔をして、ちょっと分厚い地図で叩いてきた。 「 もぅ!!えっち!すぐそういう思考になるんだから! 」 「 ははっ、ごめんって 」 オレ達は、傍から見れば仲の良いラブラブのバカップルに見えるだろう。 けれど、実際は同性カップルであり、男と女の役割が決まってる程に、昔から関係は変わらない。 元々小学生の頃から一緒に過ごして仲の良かった友達であり親友だった。 それが、中学生に入ってから桃華(ももか)が男子にモテてるのを見て嫉妬して、自分の方がそいつ等よりかっこ良いし、身長もあるから劣る部分はないと思い、猛烈アタックしたんだよな。 そしたら…… 桃華の方から告白してきたんだ。 ゙ナツ…私、ナツ以外の人を好きになれない!女は…ダメかな?゙ ゙え、全然あり…。寧ろ、私から告白しようと思ってだ ゙うそ、そんな…私、早とちりした…フラれるとかど ゙ありえない。モモ…私と付き合ってくれる?゙ ゙っ…もちろん!゙ 中学3年の卒業間際に両思いだと知って付き合って、そこから高校も大学も一緒に過ごして、やっと24歳の時に大学を卒業して、 社会人としてお金を得たから、ちょっと離れた場所まで旅行をしようってことになったんだ。 桃華の両親…特に母親からは、一人娘だからとかなり反対はされてるけど、 それでもオレ達は幸せだからと、その言葉を押し切っている。 「 でも……夜なら、いいよ? 」 照れていた彼女が、上目遣いで大きめな胸元を見せるように言ってきた言葉に、落雷が落ちたように前の座席の背もたれへと額をぶつけた。 「 っ……それ、狡くない……。ないはずのモノが…勃った… 」 「 ふふっ、ナツがいつも言うから、たまには私も言わなきゃね?やられっぱなしは気に入らないからさ 」 「 …そっか…うん……。私のハニーが、可愛い… 」 今日一日、夜に愛し愛されることを想像して彼女を眺めている事になるんだろうなーって、待てをされてるような気分になり悶ていれば、俯いたままのオレの頭部へと頭を撫でてきた。 「 じゃ、ナツは…世界一格好良い、私のダーリンだね。よしよーし 」 偶に子供みたいな扱いをされるけど、それもまた心地良いから堪能した後、顔を上げてその手を取り、婚約指輪のついた薬指へと口付けを落とす。 「 いいよ、夜…覚悟してね? 」 「 ………うん。って…いいから!行く場所決めよ! 」 「 はは、りょーかい。てか、マジでモモちゃんが行きたいなら、何処にも着いていくけどね 」 「 私はナツと周りたいのー 」 蝶のように綺麗な彼女が、花を見て周るように… その姿をずっと眺めていたいのは事実。 お互いに地図を眺めて、笑い合っていれば各バス停で停車したバスの扉は開く。 「 ………… 」 少し田舎道でブツブツと独り言のような言葉を呟きながら、入って来た黒髪に茶色のメッシュが入った若い二十代の男性。 直ぐに桃華は異変に気づいて、肩に触れてきた。 「 あの人…なんか、怖くない? 」 「 ……モモ、席を代わろう。そっとな 」 「 え…? 」 変な人だといけないし、彼女を守ると… 彼女の両親と約束してるから、静かに席を立って交代しようとした矢先に、バスが発進したと同時に、男は顔を上げた。 「 動くんじゃねぇ!! 」 「「 !!! 」」 「 全員ぶっ殺してやる!! 」 隠すように持っていた、包丁を出した瞬間、車内に悲鳴が響く。 「 バスを停めてみろ!1人ずつ殺していくからな!! 」 「 っ!! 」 運転手を脅迫した理性も何もない男は、前の座席に座っていた幼女の腕を引いた。 「 キャッ!! 」 「 マジで、誰も動くなよ!テメェ等よりちっさいコイツがどうなってもいいのかよ!! 」 「 メィ! 」 「 ばぁ、ば…っ!! 」 幼女を連れていたのは老人だった。 助ける事は、出来ない状況と震える周りのお客や桃華を見て、そっと口を開く。 「 モモ…、私が気を逸らすから…警察に電話かけて 」 「 っ…わかった…! 」 「 いいか!テメェ等、みたいなお気楽な連中がなぁ!俺みたいな外れ者を馬鹿にすんだよ!!これは、ふ、復讐だ!! 」 叫ぶように只怒鳴ってる犯人に、オレはそっと立ち上がってから、通路へと出た。 「 なっ!!テメェ、動くなって!!このガキが… 」 「 人質ならオレがなる。幼い子はまだ働いてないし、社会に貢献もしてない。なんの罪もないんだ。でも、オレは…貴方が嫌いな社会人だ 」 「 っ、じゃ、こっちに来い!両手を上げろ 」 子供が解放されたのを見て、両手を上げてから、何気無く桃華の姿が見えないように隠して、ゆっくりと近づく。 「( 桃華がなにかあるより…俺の方がマシ )」
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