14人が本棚に入れています
本棚に追加
01
「アレースよ!そなたに勇者の称号を授けよう!魔王ティアマトを倒しこの世界を救ってほしい!」
「かならずや……この国のため、すべての民のため……人類の敵、魔王を討ち滅ぼさんことを、この賜りました聖者の剣に誓います!」
この国の王に傅き、手の持つ聖者の剣を掲げる男。
『不滅の勇者』アレース。平民で貧しい家庭に生まれたが、兵士として数々の武勲を立ててきた。
最果ての村での任務の最中,
気まぐれで攻めてきた魔人を、命を賭して打ち倒した際にまばゆい光に包まれ、戦士だったジョブが勇者へと昇華されたという。
その光景を見ていた兵士や村の民は、その神々しいまでの光に次々跪いて祈ったという話が、王都の民にまで届いていた。
そして本日、王都の城に呼ばれ、王から国の宝剣である聖者の剣を賜り、公の場で国の勇者としての正式な承諾と、新たに魔王討伐の命を授かるという儀式が行われていた。。
魔王討伐に当たって、仲間として第一皇女である魔導士、ティターン王家の姫、ルーナ、聖騎士団の団長である騎士、グウィディオン男爵家の長女、ディアーナが紹介された。
そして、魔王討伐がなされたその時には、ティターン・ルーナ姫との結婚を、という話になっていた。
俺は、王の仰々しい話を聞きながらも、そのルーナ姫を見ていた。
宮廷魔導士に引けを取らない魔術師、『魔道姫』と呼ばれたその肩書からは、想像できない小さき体。可愛らしい仕草で顔を赤らめたそのお姿に、恋をしてしまったのだと実感した。
その横では、『血染めの女騎士』と呼ばれ数々の武勲を立てた女傑……だと思うのだが、今の様子からはそれは垣間見えないディアーナの姿にも目を引かれた。こちらをチラリと見ていたり、周りの様子を窺っていたりとかなり落ち着きがない。
きっとこういった場は慣れていないのだろう。俺自身も同じだと何の気なしに仲間意識を持ってしまう。まあ何となくうまくやれそうな気がする。
そんなどうでもよいことを考えている間に、この仰々しい儀式は全ての工程が終了となった。
◆王城の一室
「それでは、改めましてアレースです。よろしくお願いいたします!ルーナ様、ディアーナ様」
「ルーナ、とお呼びください。もうアレース様は勇者なのですから……」
ルーナ姫は恥ずかしそうに頬を赤らめこちらをチラチラと見てくる。
「しかし……いえ、分かりました。それでは……ルーナ……よろしくお願いする」
「はい……」
その小さな体をさらにモジモジとさせ、こちらを見てくるルーナ姫を見て、俺はやはりこの姫への愛しい気持ちがあふれていることを実感する。
「わ、私のことももちろんディアーナでいい!そもそも私は敬語とかよくわからんしな!」
「あ、ああ。分かった。よろしくディアーナ」
「お、おお!よろしく勇者様」
そんなディアーナを見て、こちらは付き合いやすそうだと思ったが……
「いや俺だけ勇者様ってのもなんだから、二人には遠慮せずアレース、と呼んでほしい」
そう言うと、二人は「アレース」と何度か確認するように口に出していった。
そして、その夜は王城の豪華な食事を頂き、さらに豪華な部屋に通され「遠慮する!」と拒んでみても無理やりに侍女たちに体を洗われ、精神的に疲れ切ったまま、ふかふかの布団にくるまって眠りについた。
そのおかげか、疲れはスッキリとれた体で目覚めることができた。
その日の朝早くから国を挙げての出発式として、何やら馬に引かれた豪華な荷台の上で、二人と共に集まった民衆に手を振るという辱めを受ける。
兵士として武勲を上げている俺は、ここまでではないが、辺境の村を訪ねた際には村中の人が集まっての大歓迎を経験しているのだが、こういったものは中々慣れはしない。
そもそも今回は規模が違いすぎるのでかなり恥ずかしい。この列は何キロ先まで続いているのだろうか……
結局王都を出るまでのおよそ20キロの道のりを、5時間ほどかけて通り過ぎていった。手が痛い。なんとか笑顔を保ち続けた口元がヒクヒクと強張っている。隣を見ると、さすが王族のルーナ。余裕の表情であった。
ディアーナは俺と同じように疲れ切っている様子であった。なんだかディアーナの方が気が合いそうだと感じていたが、やはり笑顔のルーナを見て俺の中にルーナへの強い思いがあることを実感する。
王都を出ると、派手な荷台とはおさらばして別に用意されていた、こじんまりとした馬車に乗り込む。城門から少し離れた場所に待機してあったようだ。
それに乗り込むと、内装の方は豪華な作りになっていた。座席もふかふかでこれが王族の乗るレベルのものなのかと驚いた。やはり姫は普通といった所作で座っている。
ディアーナは俺と同じように若干落ち着きがなく、何度かお尻の位置を変えてその座り心地を確かめているようだった。やっぱりそうなっちゃうよな。と心の中で同意していた。
とはいえ、俺たちはここからは2週間ほど、このまま馬車にのりながら、北の大地を目指す旅をすることになる。
道なりに進み、たまに街に寄りながらも北の魔王城を目指す。徐々に魔物たちも強くなるエリアへと近づいていくだろう。道中の食料は事前に俺の収納スキルで数年は生活できるのでは?というほどの物資が詰め込まれていた。
収納は勇者となった際に発現したスキルの一つである。まったく、とんでもなく便利なものだなと我ながら感心する。
馬車はどんどん進んでいき、途中の村で度々緊急の依頼などを受ける。
ある村では近くの森に魔物の群れが襲ってくるというので、その討伐に3人で赴くがそこらの魔物の群れなどルーナの魔法で殲滅して終わりであった。たまにそれから逃れた魔物がいた場合には俺とディアーナで殲滅していく。
別の村ではオーガキングとその群れにより、何人かの女性と子供が攫われたということで、村人から救出と討伐を依頼された。もちろんそれを快く引き受ける。魔法が効かないオーガキングに対してはディアーナと二人で特攻して切り倒す。
3人いれば何者にも負けない!という安心感が生まれるまで、そう時間はかからなかった。
そのままゆっくりではあるが、魔王城への道のりは進んでいく。
最初のコメントを投稿しよう!