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乗りなれた馬車から離れ、足元の悪い山道を登っていく。 高い身体能力を発揮して登っていく俺は、少し遅れて登ってくるディアーナと、かなり息を切らして歩いているルーナを待ちながら進んでいた。 馬車に乗っていた時は気にならなかった、ルーナの腰に下げた道具袋が何となく気になり「なんなら俺の収納の中に入れておこうか?」と聞いてみたのだが「女性には何かと秘密の物もあるのよ」と少し疲れた表情で微笑まれた。 そういうものかと思い「配慮に駆けたな。すまん」と謝っておいた。 ふと見ると、ディアーナも同じように道具袋を腰に下げていた。ルーナのちょっと高そうな装飾のついた袋とは違うが、それなりに色々入りそうな袋。 同じようにそれとなく聞いてみる。やはり同じように断われてしまう。女性も何かと大変なんだなと思ったが、自分に置き換えて考えてみる。 ああ、確かにパンツなんかの下着類だと、見られるとかなり恥ずかしいな。そんなことを考えて一人赤くなる。俺と一緒にまだ登ってこないルーナを待つディアーナが、不思議そうに俺の顔を見ていたので、俺は咳払いでごまかした。 山道を歩く俺らの前には定期的に魔物の襲来があった。 しかしそれらは俺かディアーナが易々と屠っていった。空が薄暗くなると野営の準備を始める。食事の準備を終えるとルーナ用のテントを出す。すると疲れ切った様子のルーナが食事もそこそこに中へ入って就寝する。 俺とディアーナは、その入口付近に厚手の布袋を出して尻に敷くと、座って交互に寝ずの番をする日々が続いた。 野営はこれで3日目だ。ふいに寝ている時間のディアーナが俺の肩にもたれかかってくる。少し驚くが、ディアーナだって疲れていないはずはないのだ。俺はそう思いながら頭の中を今後のことへと切り替える。 後4日ほどで魔王城へ突入できる位置にはたどり着くだろう。 そんな中で俺は、人肌恋しさにディアーナの肩から感じる温かみに、少しだけ心が安らいでいくのを感じていた。 思えばあの日のディアーナの言葉で、はっきりと実感してしまったルーナの俺への思い。それを考えると、どうしても全ての会話に何かしらの意味を考えて気疲れを感じてしまう。そんな自分に腹も立った。俺はルーナを愛しているのに…… だが向こうは政略的な思いで動いているのだろう。その言葉は全て俺を篭絡するための手段だ。そう思って言葉の裏を考えてしまう日々。 もちろんルーナだってある程度の好意は感じてくれているだろう。ここまで一緒に旅をしてきたのだ。少しなりともそう感じているはず。いや、そう思っていてほしい……願望に近い考えを強く願った。 彼女は王族、己の職務を全うするのだろう。 それでも一緒にいられるなら関係ない。一緒にいられさえすれば、俺は幸せなんだ。そう思っていた。 それでも揺れ動くものがある。 どうせなら愛し、愛されたい…… その思いを、横から感じる無防備な安らぎでごまかそうとしていた。 暫く時間が経つとディアーナが頭をガクンと揺らし目を覚ました。こちらに肩を寄せていることに気づいて照れているようだったが、すぐに気持ちを持ち直し謝罪と交代することを告げられる。 「良く寝てたからな……安心しきってるが、俺だって男だぞ……」 不意に出てしまった言葉。自分でもびっくりした。変なことを考えていたからだろう。 「私は……アレースなら何をされても構わない……」 俺は真剣な表情でディアーナの思いを告げられ、返答することはできなかった。 「ま、まあ?信頼してるからな?いや、忘れてくれ……あとは私が番をするから朝まで体を休めてほしい。おやすみアレース」 「そ、うか。じゃあ少し、休ませてもらうかな……おやすみ、ディアーナ」 そして俺は目をつぶり、あまり眠くもない意識を強制的に手放した。信頼しているのはこちらも……なんだがな…… ◆◇◆◇◆ 野営を続け7日目。 疲れた体に鞭を討って進む三人。しかしその様子は三者三様で、俺は特に問題なく絶好調であった。ディアーナは少し疲れが残ってはいるがまだまだ元気というところ。問題はルーナであった。 慣れない野営で疲れがなかなか抜けていない。これは暫く休養が必要だと野営の場所を少し横にそれた深い森の中に決め、何とかテントを立てることができた。 ついさっき、ディアーナから「姫様がお疲れなので2~3日ほど休ませては?」と提案があった。 ルーナは「私は大丈夫です!気を使わないでください!」と気丈に振舞っていたが、さらにディアーナから「私も実は……月の物が!来たので……」と恥ずかしそうに言ってきたので、やはり休みを取ることに決めた。 ここぞとばかりに結界石という数日程度、人の気配を消せるアイテムをテントの周りに置いて魔力をこめた。使い捨てではあるが魔王城に乗り込む前には一度使う予定であったのだから今使ってもよいだろう。 この場所が、予想以上に城に近づいても分かりにくい立地であったことも幸いした。 その日から2日、二人が落ち着くまではここで体力回復に努めよう。収納には食料がたっぷりと入っているから問題もない。万全の態勢で臨むための準備を怠ってはいけないのだ。そう思って休息の日々を過ごす。 最近は少し悩みすぎていたのだ。こうやってすぐにでも突入できる位置にいるため、意識はすでに魔王へと向けられ余分なことは考えれなくなったのは、ちょうど良い機会だと思えた。やっと気持ちを落ち着けることができる。 そう実感していた。 休養をたっぷりとったら魔王城に乗り込んで、遂に魔王をこの手で屠るのだ! そう決意を新たに体を休めつつも、暇を見て剣をにぎりしめた。
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