4.許しがたい真実

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4.許しがたい真実

 「あれっ? むーちゃんって姉妹(きょうだい)いたっけ?」  厨房の仕事が途絶えて皆が手持ち無沙汰になる時間帯、スタッフ同士の雑談の中でふいに『家族について』の質問を向けられ、それに答えた直後だった。麗が不思議そうに疑問を投げてきた。 「あ、うん、姉がいて」 「ええ? お姉さんがいるの? うそお?」  麗の反応はもっともだ。妹であれば、自分が引っ越した後に生まれたのかと思うはずだが姉となれば別の話になる。 「むーちゃんちに何度も遊びに行ったけど、お姉さんに会った記憶がないなあ……」  最初は驚きを隠せなかった表情が次第に曇ってきた。私が秘密にしていたと勘違いしたのかもしれない。私は慌てて訂正した。 「事情があって離れて暮らしてたんだ。れいちゃんが引っ越した後に一緒に暮らすようになったんだよ」 「事情って?」 「病気だったみたい。空気がきれいな場所で治してたみたいで」 「みたいでって、むーちゃんは知らなかったの?」 「……うん、知らなかった」 「そんなことって、ある?」 「……」  ない、よな……。  子供だった頃はあまり深く考えず、なんとなく納得してしまったが、大人になるにつれ『どういうことだったんだろう……』と訝しく思うようになった。双子なのに誕生日も違うし、両親は睦美の存在を隠し続けてきたわけだし。 「なんの病気だったの?」  麗は単純に興味が湧いたようだ。 「なんだった、かな……」  はっきりとした病名は聞いていなかった。  そもそも睦美が以前どんな暮らしをしていたのかも含め、我が家ではそれらの話題が出たことはなかった。両親も睦美もかのように振る舞っていて、睦美に怪我をさせてしまった後からは私も口を噤んだから。 「麗と碧(うちら)がいなくなった後にそんなドラマチックな展開があったんだ。いやあ、びっくりだ」  私がきちんと答えられないせいで麗に気を遣わせたようだ。麗が質問を変えた。 「むーちゃんに似てる? どんな人?」 「……そう、だね」  双子なのだから当然のこと顔は似ている。けれど性格はどうだろう。静かでおとなしかった、出会った頃の睦美はもういない。私のせいで怪我をしてから、変わってしまった。 「顔は似てるかな、けど、性格は正反対かな。むーちゃんは女子力高い系の華やかな子って感じかな」 「お姉さんも“むーちゃん”って呼ばれるの?」 「!」  私ははっとして口元を押さえた。数秒の間ができる。 「宮原さん、その皿こっち持ってきて」  その場にいて私たちの会話を聞いていた有賀さんがふいに指示をくれた。いつも周りを見ている人だ。なにかを察したのかもしれなかった。 「――注文入りました」   フロアから厨房へスタッフが向かってきて、私たちの会話も自然と終わった。  麗は黙ったままだった。私も仕事の続きに戻る。  心臓が嫌な感じに騒いでいた。  質問に答えなかった私に麗は失望しただろうか。信用していないと誤解させただろうか。再会してからずっと昔と同じように接してくれたのに。 「……」  麗に、隠し事はしたくない――。  私は唇をぐっと噛んで顔を上げた。 「れいちゃん、あとで全部話すから聞いてくれる?」  私は麗の背後から早口で、けれどしっかりと伝えた。麗は振り返らなかったが、すかさず「もちろんだよ!」と返ってきた。  よしっ! 今日の仕事もがんばろっ。  覚悟を決めた途端、心の靄がすっと晴れた。
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