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池田さんにも、事情を話した。
池田さんはやはり古橋さんと同じように動揺し、目の中に恐怖を滲ませた。
「本当にごめんなさい」
古橋さんは、睦美の犯行を見ていたのに伝えずにいたことを謝り、私も自分と関わったために池田さんに怪我をさせてしまったことを謝った。
「……なにそれ。なんでそんなひどいこと……」
池田さんは自分の靴に細工をしたのが睦美だという事実にも、私がこれまでされてきた仕打ちにも、狼狽えながらその言葉を呟いた。古橋さんの提案でカラオケボックスの個室で会っていた私たちは、人目もはばからず泣いて、憤って、そして仲直りをした。
「退院してひさしぶりに学校へ行った日、宮原さんのお姉さんが謝りに来たよね。“私の妹がごめんなさい”って。だから私、宮原さんが罪を認めたんだ、って思い込んでしまった」
そうだった。
睦美は休み時間に私の教室へ入ってきて、泣きながら池田さんに謝ったのだ。クラスメイト達からの軽蔑の視線を受けて、私は自分の席でじっとしていた。
「ねえ、こんなこと聞いたらあれだけど……、彼女は本当に、宮原さんのお姉さんなの?」
池田さんの疑問に古橋さんが答える。
「そうだよね、ここまでひどいことを長年に渡ってし続けるって異常だし、本当に血が繋がっているのか疑っちゃう」
「だけど顔を見るとそっくりだし……」
ふたりは納得がいかないという顔をした。
「そういえば、お姉さんは突然来たって言ってたよね、病気で田舎のおじいさんたちと暮らしていたって」
「うん」
両親から聞いた事情はそういうことだった。
「でもなんかおかしくない? いくら離れて暮らしていたからってそれまで一度も、家族の間でその話題が出ないなんて」
「……」
睦美に騙された衝撃に意識が向いていても、その疑問は私の奥底でずっと燻ぶっている。
「お姉さんが一緒に暮らしていたおじいさんとおばあさんに話を聞くことはできないの?」
「それが、ふたりとも亡くなってしまったみたいで」
「お葬式は?」
「……私が知らない間に終わってて」
母方の祖父母とは結局会うことが叶わぬままだった。睦美からも、母からもふたりの話題が出たことはなかった。――なにか、私だけが知らない事情でもあるの?
その後も、古橋さんと池田さんからの質問が続いた。大半のことに答えられなかった。
……私は、何も知らないんだ。
睦美の顔色を窺って生きてきた。せめて睦美を苛立たせないようにと余計なことは口にしないクセがついていた。
「――お母さんが生まれたところへ行ってみようかな」
思いついたことが声に出た。
!
その声に反射的に身震いした。
……そんなことをして大丈夫?。
受け身だったこれまでの自分が不安そうに語りかけてきた。
「それがいいと思う」
「私も賛成」
「……」
怖気づく手前で古橋さんと池田さんが私を奮い立たせてくれた。
私は、無理に笑顔を作った。そうしたら気持ちが強くなった。
「そうだよね。お墓参りも行ってないし」
もっともらしい理由の裏には、睦美がどんなところで暮らしていたのか知りたいという思いもあった。
……れいちゃんにも相談してみよう、
ふたりとプライベートの連絡先を交換して、またすぐ会おうねと約束し、その場で麗にメールした。
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