7.動き出した時間

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 私は、ちら、と麗を見た。  ……私のこと、どこまでアオくんに伝えてるのかな?  アイコンタクトだけで麗が察してくれた。 「ざっくりとは話してあるよ、けどアオくんもむーちゃんから直接聞いた方がいいだろうと思って」 「……そっか」  私は静かに頷く。  私の身に起きたことは麗に話した。『碧と睦美が会っている』ということ以外のすべてを。であれば――― 「アオくん、ひとつだけ、聞いてもいい?」 「うん? 何でも聞いて」  私は、声が震えませんように、と祈りながらなるべく明るく聞いた。 「今って、好きな子いる?」 「!」  一瞬にして碧の頬が赤らんだ。  ……あ、いるって、ことだ……。それは…… 「もうつきあってる、とか?」 「あっ、いや、まだ告白も、してない、し……」  急に落ち着きがなくなった碧から、私は目を逸らして続けた。 「……でも、手応えはあるよね」 「えっ、ある、のか、なあ。あったら嬉しいけど……」  碧は照れる口元に手を添えて、広がっていく笑みを隠した。 「……」  ……なんだ、アオくんも睦美のことが好きになったんだ。じゃなきゃ毎日メッセージのやりとりなんかしないか、そりゃ、そうか……  ……。  あきらめの笑みが漏れた。  飛び出してきてしまった碧のアパートで、裸になった睦美と碧がその後どうなったかなんて、聞くだけ野暮だ。 「了解」  私は吹っ切るように顔を上げた。「じゃ、私の番ね」  頷く碧と麗に押されるように言葉を繋げた。 「ふたりがいなくなって、突然私にお姉ちゃんができたの、睦美って名前の」  あえて名前を出した。碧が、睦美のことを打ち明けやすいように。 「しかも私とは双子なんだって」  ……だから似てるんだよ、睦美と頻繁に会ってるならを見てもう気づいてたでしょう?  私はこれから、睦美にどんな目に遭わされてきたかを、碧が好きになった睦美の本性を暴露する。だから、たとえば碧が『俺が好きな子と同じ名前だ』とでも言い出してくれれば、碧の気持ちを傷つけないように努力しようと思う。 「……」 「……」  けれど碧に変化はない。  ……名前を出してもまだ重ならないの?  もどかしい気持ちのまま、踏み込んだ。 「睦美、みんなに“むーちゃん”って呼ばれてる」  碧は静かに頷いた。 「……うん」  !  “うん”って、なに? 「……」 「……」  数秒、眼鏡越しの碧と視線が絡まった。切迫感を伴っている私のそれとは対照的に碧は不安そうに見えた。  !  ……もしかして、すべて知ってるの?  睦美が私の双子の姉だということも?  知っていて、気まずくて言い出せないの? 「……」  今、アオくんから言ってくれなかったら私は、どうすればいいの……? 「むーちゃん? 大丈夫?」  麗に背中を擦られ、自分の上半身が丸く落ちていたことに気づいた。 「あっ、うん、ごめん……」  混乱したまま必死に笑顔を作った。 「苦しかったら無理に今言わなくてもいいよ、まだ旅は長いしさ」  麗の気遣いに、作った笑顔が強張った。  ――今言わなくてもいい……  いや、今言わなかったらこの先言える気がしない……  重たい額を片手で支えた。  “ここにいる碧”は、私の幼馴染みで初恋で、大切な友達だ。睦美と出会って睦美のことが好きになってしまった碧ではなく―――  自分をなだめるための落としどころを探った。  ファミレスで向かい合う碧と睦美を見たことは幻で、碧のアパートでの一部始終も記憶違いで、―――そう思い込んでみる。  弱く首を振った。  ……さすがに、無理があるよ。  麗と碧がコソコソとなにか話している。  焦燥感の中、冷えていく思考で結論を急ぐ。――どうしたらいい?  本当はなにもかもぶちまけたい。睦美のせいで苦しんできた、そのことを碧にも憤ってほしい。睦美を憎んでほしい。私の、味方になってほしい。そんな睦美のことを好きにならないでと叫びたい。……だけど碧は、もう睦美と出会ってしまった。そして私に睦美とのことを隠している。―――それが、碧の答えだ。  だったら私の結論はひとつしかない。  私は、碧には  
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