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1.金庫
「本当にこれ全部いいんですか?」
「ええ、私にはもう必要ない物ですので」
とある片田舎の古びた日本家屋の一室、押し入れの中に据え付けられた金庫の中を見た私は、動揺を隠せないでいた。
開け放たれた家庭用耐火金庫には、素人目にも決して安くはない貴金属アクセサリーが丁寧にしまい込まれていた。
「換金することになりますけど、思い出の品とか、残しておきたい物もあるのでは? というか、おそらくどれか1つでも過分なのですが……」
「いいんです。死蔵されるくらいなら、大切にしてくれる人の手に渡る方が良いと思います」
「わかりました」
依頼達成の報酬としては多すぎるが、満足そうな笑みを称える彼女は何を言っても引き下がらないだろう。依頼主がいいと言うならば、ありがたく頂戴しよう。
しばらく仕事をしなくてもいいのでは?と悪魔の誘惑をする貴金属類を惜しげもなく譲ってくれる彼女、葦原友梨佳は、来所して開口一番にこう言った。
――依頼料は現金でなければいけないでしょうか?
聞かれたことがないわけではないが、いの一番に尋ねられるのは珍しかったので、いつも以上に真剣に話を聞くこととなる。
――元カレに相応の罰を与える手助けをお願いします。
いやいや、探偵業の申請を出しているとはいえ、心霊相談所だよ。カップルの悶着はそれ相応の相談場所があるだろう。
皆さん、そう思ったのではないだろうか?
だが私はこの場違いとも思える相談を聴き、契約を結び、解決へと導いたのである。
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